あたしの気持ち




 恋する女の子にとっては、年に一度の特別な日。
 お菓子会社の陰謀だとか色々言われているけど、やっぱり世間がそういう雰囲気に包まれるから、普段は素直になれないあたしだってちょっとは素直になれるかもしれない。
 友達に付き合って学校帰りに寄ってみた特設会場で、あたしは小さな小さなチョコレートを一つこっそりと買ってみた。


 何か行事があるたびにあたしは腕をふるって料理を作る。
 でも、それを喜んで食べてくれたことはない。
 大体いつも、腰が引けながらお父さんとかに背中を押されて嫌々食べているのを見るだけ。
 今度こそはって思いながら作るんだけど、それでもやっぱりあたしが作ったものを口に入れた瞬間の乱馬の顔は、いつも苦しそうだ。


 せっかく素直になれるかもしれないバレンタイン。いつものあの心底嫌そうな顔を見るのはあたしだって嫌だ。

 だから、今回はお店で売っているチョコレートを買ってみた。
 手のひらにすっぽりとおさまるぐらいの小さなハート。


 それはまるで、素直になれないあたしの気持ちみたいで。


 どうせあたしがチョコをあげるっていう仕草をしただけで、意地っ張りな許婚は「いらねぇよっ!」っていう顔をするに決まってる。
 恋する女の子の日なんだから、乱馬を好きな三人娘だって黙っちゃいないだろう。


 それでも。


 もしも素直になれる瞬間があるなら。



 小さな箱に入った小さな小さなハートのチョコ。
 このチョコが、乱馬の手の中に無事に届きますように。



 年に一度、恋する女の子にとって特別な日。
 どうか、素直になれないあたしの気持ちが乱馬に届きますように。









 突発的もいいトコ。何も考えずにパソコンに向かって、気がついたらかけていた短文。小説でもなんでもないです。
 ちなみに、一応原作「小さなハート」を意識して書いてみたり。
(06/02/12)





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