秋のおとずれ






「あっ。キンモクセイ」

 すっかり涼しくなった10月。
 学校帰りにいつものフェンスの上を歩いていたオレの斜め下を歩くあかねはそういってオレを見上げた。

 …キンモクセイ?
 なんじゃ、そりゃ。

「ほらほらっ。いいにおいだねー」
「いいにおいだぁ??なんもにおわねぇぞ??」

 右側にドブ川。
 左側にあかね。

 いつもとなんもかわんねーぞ?

「えー?すっごいいい香りじゃない。乱馬、鼻詰まってるんじゃないの?」
「んなことねぇよ。…どれどれっと」

 フェンスの上だからわかんねーのか?
 ひとまずそう思ったオレは、あかねの隣りに下りてみる。

 …おっ?
 なんだぁ?

 なんか…ガムだか飴だかみたいな…。

「甘いにおいがする…」
「そうよ。…え?乱馬ってば、キンモクセイ知らないの?」

 周りの空気を思いっきり吸い込んだオレの隣りで、あかねのやつ、バカにしたように言いやがる。
 知らなくて悪かったな。

「秋といえばキンモクセイじゃない。ほら、甘い香りがするでしょ?」
「ああ…。なんか腹減ってくんなー」
「あんたって…ほんとすぐ食べ物に持っていくんだから」
「なんでぇ。やっぱ秋といやぁ食欲の秋だろ?肉まん食いてぇ」

 んな甘いにおいかいでたら、よけーに腹減ってくるじゃねぇか。
 しっかし、強烈なにおいだな。

「どこに咲いてるんだろ…。あっ!あそこだっ」

 あかねのやつ、そう言いながら少し先の公園に向かう。
 つられてオレも行こうとすると…。

「ねぇ乱馬?」
「んだよ」

 あかねのやつ、いきなり振り返ってオレに向かって笑顔で微笑みかける。
 なんだぁ?
 こいつがこういう笑顔で話しかけるときってのは、たいがいオレに勝てそうな勝負しかけるときなんだよな。

「キンモクセイがどれか、わかる?」
「へ?」

 見ると…あかねの指差した先には三種類ぐらいの花が咲いている。
 …むむむ。
 たぶん、あのどれかが「キンモクセイ」ってやつなんだろうな。
 でも…どれだ?

「あ、わかんないんだーっ。やっぱりね〜。教えてあげよっか?」
「それぐらいわかるってーの。…ちょっと待てよ」

 このにおいからいって…たぶん、花がでけぇんだろうな。
 ってことは、あのでっけぇ木にいっぱいついてるオレンジのヤツは違うな。

 で。
 きっと数が多いんだろうな。強烈だもんな。にいおいが。
 ってことは…あの低い木にちょこちょこっとついてるピンクのヤツも違うよな。

 …ってことは。

「コレだろ?キンモクセイ」

 オレ様の完全な推理によって導かれた地面に咲いた黄色い花を指差してあかねを見ると…。

「ぶっぶーっ。はっずれぇ〜」

 あかねのやつ、そういって嬉しそうに笑いやがる。
 ちっくしょーっっ!!

「これは背高泡立草っていう雑草だよーだっ」
「セイタカアワダチソウ???」

 なんだそれ?ほんとに花の名前か?

「そ。背が高くって…えーっと、お酒を醸造するときの泡立ちに似てるからだっけな?でついた名前なんだって」
「…おめー、なんでんなこと知ってんだよ?」
「小さい頃、よくかすみおねえちゃんに教えてもらったんだー。へへ。すごいでしょ?」

 ちなみに、あっちのピンクの花がサザンカで、こっちのオレンジの花がキンモクセイだよ。

 あかねのやつ、オレに向かって得意気に話してくる。

 くっそ〜…っ。
 悔しいけど、自慢げに話しているあかねの笑顔はかなり…じゃなくってちょっとかわいい。
 普段からコレぐらい笑顔でいればいいんだけどなー。

「ほらほら。こっちおいでよ。すっごいいい香りだよー?…乱馬?」

 思わず。
 思わず、だ。
 ついうっかりだぞ?
 あかねのその笑顔に見惚れてたオレは、あかねの言葉に反応を返すのを忘れる。

「乱馬?どーしたの?」
「…へ?!あっ…いやいや。すんげーにおいだな。うん」

 あっぶねぇあぶねぇ。
 危うく見惚れるところだったぜ。
 っつーかよ。あかねが花に詳しいって意外だよなー…。
 女らしいことはまったくダメだと思ってたぜ。

「ちょっと、何よその顔。悪かったわねっ!あたしが花に詳しくって」
「げっ…なんでわかったんだよっ!?」
「あーっ!!やっぱりそう思ってたんだっ!!」
「あっ!…ちがっ!!」
「…何よ、別にそれぐらいで殴らないわよ」

 思わずオレが後ずさりしたのをみて、あかねのやつ、ため息一つついて一言。
 そ、そうだよな。んなことで殴られたら割りあわねぇよな。
 なんか、ついつい身構える癖がついちまってるぜ…。

「そうだよなーっ。おめーと花が似合わねぇなんて、周知の事実だもんなー」
「…ちょっと?」
「いやほんと、豚に真珠?猫に小判?さすがにオレもびびっちまったぜっ」
「…ら…らんまぁ〜?」
「まぁよ、おめーは花を育てるっちゅーよりは、植木鉢割るほうが似合うタイプだもんな〜」
「〜…べらべらと余計なことをしゃべる口は…この口かーっっっ!!!」

 なっ…殴らねぇっていったじゃねぇかーっっっ!!!

 思わず心にもないことを口走ったオレの顔に、あかねの特大パンチが炸裂した。

 え?その後?


 …もちろん、思いっきり飛ばされたぜ。
 おかしいよな。
 なんでキンモクセイの話からオレが殴られにゃならんのだ。
 っていうかよ。
 あかねはオレを殴りすぎじゃねぇか?
 いや、マジで。
 ぜってーにおかしいと思うぜ。この回数は。








 久しぶりに書いたなー…。乱あお話。
 リアルで書いたのは…「向日葵の咲く道」以来だから…約1ヵ月ぶり??
 …そんなに書いてなかったのか(笑)
 ほんとは別の話を書こうと思ったのですが、何気に今日外に出てみると金木犀のいいにおいがしたので…。急遽できたお話です。
 うーはー…。前後の流れがおかしいー…。
 あかねちゃんが花に詳しいかどうかなんて知りませんとも(笑)
 ただ、背高泡立草の由来は本当です。「季節の花300」さんより引用させていただきました。ありがとうゴザイマシタ。
 …背景は何故かサザンカなんですけどね(涙)見つからなかったんです…キンモクセイ。

 そして…なんか、乱馬くんぽくないですね。
 ま、軽くリハビリ(?)って感じで…大目に見てやって下さい(笑)
 ちなみに、私のイメージ的に、かなり初期の頃の乱あです。
 まだお互い友達感覚な2人。この頃の2人も好きだったなーvv

(05/10/05 作成)





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