1.朝顔






午前7時。天道家1階、早乙女家親子の部屋。


早乙女乱馬の1日は、許婚の声から始まる。

「乱馬―っっ!!いーかげんに起きなさいよっ!!」
「…んあ?なんだよ。夏休みなんだからいーだろ??」
「何言ってんのよっ!今日は朝から補習の日でしょーがっ!」
「…へ?そーだっけ?」

制服姿に身を包んだ乱馬の許婚である天道家三女あかねが、乱馬の部屋の前で仁王立ちをしている。

「あんたねーっ!ちゃんと覚えておきなさいよ」
「んなこと言ったって…」

あかねに起こされた乱馬は、その足で洗面所に向かう。
洗面所で寝ぼけ眼で歯を磨いていると…。天道家居候の変態エロじじぃ…もとい、八宝菜がやってくる。

「ら・ん・ま・ちゅああ〜んっ。おっはよーんっ」

八宝菜のこの声と共に、派手な水しぶきと女の子の声が聞こえる。

「てめぇっ!何しやがるんだっっ!!」
「やっぱ乱馬は女体がええのぉ。朝から生き返るわいっ」

女になった乱馬の胸に顔をうずめる八宝菜。
その後、水浸しになった洗面所で、乱馬と八宝菜のケンカが繰り広げられるのも、いつものことである。



午前7時半。天道家1階、茶の間。


「あら、乱馬くんおはよう」

頭から水をかけられて女になった乱馬にそっとやかんを渡すのは、天道家長女かすみ。
かすみからやかんを受け取り、自分の頭からお湯をかける乱馬。

「また朝からおじいさんとケンカ?」

女から男に変わる許婚を横目に、朝ごはんを食べるあかねが呆れ顔で話かける。

「好きでケンカしてるわけじゃねーよっ。ったく…。あさっぱらから気色わりぃ」

男に戻った乱馬は、早速用意された朝ごはんに手をつける。
朝からお茶碗に3杯は軽くご飯を食べるこの男。
「居候、3杯めはそっと出す」という言葉を知らないのだろうか。

「やっぱかすみさんのメシはうめえな」

ニコニコ笑顔でそういいながら卵焼きを口に入れる乱馬の隣で、静かに闘志を燃やすあかね。
どうやら、昨日の昼にあかねが作った料理を乱馬が食べなかったことが、まだ尾を引いているらしい。



午前8時。通学路。


夏休みの補修のため、いつもよりのんびりと登校する乱馬とあかねの前に、またも中国女傑族の娘、シャンプーがやってくる。

「あいやぁ〜っ。乱馬!ひさしぶりねっ。元気だたか?」
「シャっ…シャンプーっ!」

乱馬の首に飛びつき、ごろごろとのどを鳴らすシャンプーに、相変わらずきっちりと拒絶できない情けない許婚。
その許婚の様子を見ていたあかねは、深いため息と共に冷たい一言。

「乱馬。先に行ってるわよー?」
「だっ!!!ちょっと待てよっ!あかねっ…」
「乱馬っ!今から私とデートするよろしっ」

さっさと乱馬を置いて先に行くあかねに、情けない声をかける乱馬。
もちろん、シャンプーの抱擁を受けたまま…である。
こんなことをしていると、いつか本当に許婚に愛想を付かされるのではないだろうか…。



午前12時。風林館高校校門前。


補修が終わった乱馬とあかねは、校門前で竹刀を持った剣道部主将と顔を合わせる。
風林館高校一の変態と言われる男、九能帯刀17歳。
天道あかねとおさげの女を両てんびんにかけるこの男、何かといえば乱馬に決闘を申し込む。
その都度あっさりと負けているのだが…。

「よっ…九能先輩っ。久しぶりっ」

そういいながら、乱馬は九脳の頭の上に飛び乗る。

「おのれ…早乙女乱馬!!会うなりその無礼な態度…。許すまじっ!観念せいっ!!!」

そういいながら乱馬めがけて竹刀を振り下ろす九能。
その竹刀を軽くよけて…。

「わりぃっ!今日は腹減ってんでまた今度なっ」

そういいながら、校門を出て行く乱馬。
振り下ろした竹刀を震わせながら、怒り爆発寸前の九能の様子を横目に、あかねも乱馬の後を追って校門を出て行く。


校門を出てしばらく歩くと、あかねは自分の隣のフェンスの上にいる許婚に話しかける。

「ねぇ、乱馬」
「なんだよ」
「あんまり九能先輩をからかっちゃかわいそうよ」
「そっかぁ?」
「そうよっ。仮にも先輩なんだし…」
「おめーこそ、『仮にも』って…それこそひどくねーか?」
「そ…そんなことないわよっ!」

いーだっ!という顔をしながら、あかねが乱馬めがけてカバンを振り上げる。
そのカバンを避けながら、へへっと舌を出す乱馬。

その様子は、どうみても仲のよいカップルがじゃれあっているようにしか見えない。
本人たちは気づいてないが、結局この2人は公認カップルなのだろう。



午後3時。天道家茶の間。


「みなさーん。カキ氷ができましたよー」

夏の暑さにばてきっている天道家の人間に、かすみの涼しい声が聞こえてくる。

「やっぱり夏はカキ氷だねぇ」
『左に同じ』

縁側で将棋を指していた天道家当主の早雲と、居候で乱馬の父玄馬は、縁側で庭を見ながら、かすみが作ったカキ氷を食べる。

「ひゃっほ〜っ。やっぱ夏はこれだよなーっっ」
「あーっっ。つめたーいっ」

庭で突きの稽古をしていた乱馬と、道場でかわら割りをしていたあかねも、共に縁側に座ってカキ氷を手にする。

「なんだよ。親父またパンダになってんのかよ?」
「ほんと。おじさま最近パンダでいる時間のほうが長いんじゃない?」
「ぱふぉっ!」

2人はそろって玄馬のパンダ姿に突っ込みを入れる。

「そういいながら縁側で並んでかき氷をつつく姿は、やっぱり許婚ならではといったところだろうか…っと」
「ん?なびき…。てめぇ何書いてんだよ?」

茶の間のテーブルにノートを広げている私に気づいた乱馬くんが、胡散臭そうにこっちをみている。
…やばいかしら。

「ほんとだ。そういえばおねえちゃん、今日は朝からずーっとそのノート持ってるじゃない」

乱馬くんの隣に座っていたあかねも、一緒になって私のほうを見る。
うーん…そろそろ潮時かしらね。

「あら、夏休みの観察日記よ。ほら、よく小学生のときにやったじゃない」
「ほー…。…で、なにを観察してんだよ」

乱馬くんの声が怒りを帯びてくる。
あら、もうわかっちゃったのかしら?
いやね。こんなことで怒るだなんて。

「え?乱馬くんよ。意外とよく売れるのよねー。写真に続いての人気商品っ」
「おれは朝顔じゃねぇぇーっ!!」

ちっ…べつに減るもんじゃないんだしいいじゃないの。
まったく、そんなことで怒るだなんて、相変わらず器が小さい男よね。

「なびき。それはちょっと乱馬くんがかわいそうよ?」
「…乱馬の観察日記なんて、欲しがる人がいるほうがどーかしてるわよっ」
「なびきぃぃ。あんま揉め事を増やさんでくれよ」
「ぱふぉっ」

まったく、みんなして好き勝手なこといってるんだから。
あーあ、まだ夕方なのになー。
今日はもうムリかしら…。
乱馬くんも怒り頂点って感じだしね。


ま、また明日からこっそりつけようっと。


ほんと、意外と乱馬くんって人気あるのよねー。
生写真とセットにすると、飛ぶように売れるんだもの。








夏のお題その1は「朝顔」だったんで…。
朝顔、朝顔、朝顔…って考えて、思いついたのは「朝顔の観察日記」

で、なびき姐さんに「乱馬くんの観察日記」をつけてもらいました(笑)
その名も『夏休み補修ヴァージョン』
ちなみに、最初に浮かんだのは乱馬くんが「おれは朝顔じゃねぇーっっ!!」という一言。
もう、このセリフが浮かんだがために書いたようなお話です(笑)
なんで、あんまり内容はないよー(汗)

…っていうか、なぜ話の筋とは関係ないところでシャンプーを出すんだろう、私(笑)
なんか、登校シーンにシャンプーを登場させたくなるんですよね。はてはて??


(05/08/03 作成 ブログにて発表済み分   05/09/15 加筆修正)





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