あかねのお料理大作戦




初夏…と呼ぶにはすっかり真夏日が続いている7月。
風林館高校1年F組では午後の授業を丸まる昼寝で過ごしたお下げの男の子が、力なく机に突っ伏していた。

「あーっ腹減ったな〜…。晩メシまでぜってーもたねぇ…」

お昼にお弁当を平らげ、しかもその後で購買部でサンドイッチまで食べていたのにもかかわらず、2時間授業を受けただけで、すっかり胃の中のものは消化されてしまった男、早乙女乱馬。

「うー…。よし!なぁあかね。うっちゃんとこ寄ってかえろーぜっ」

机から身体を起こすと、乱馬は隣の席で急いで帰る準備をしているショートヘアの少女、天道あかねに声をかける。

「あ、乱馬。ちょっとあたし帰り寄るところあるから…ごめんねっ!」
「え…?あ、おいっ…?どこに…?」

乱馬の問いかけも聞かず、一目散で教室を後にするあかね。

「んだよー…。そういや最近帰ってくんの遅いよなぁ…。…なにやってんだ?あいつ」

…怪しい。

あかねが出て行った教室のドアを見ながら、一人考え込む乱馬。
…と、そこへ。

「乱ちゃんっ。なんやぁ?あかねちゃんに振られたんかいな。んじゃ、一緒に帰ろっ」
「ニーハオ乱馬!新作の肉まんつくたね!今すぐ猫飯店に食べにくるよろし」

大型のヘラを担いで学ランを着ている女、久遠寺右京と、チャイナ服に自転車で教室に入ってきた中国女傑族の女、シャンプーが同時に乱馬の元へ押しかける。

「うわぁっ!シャンプー!!自転車で教室に入ってくんなよっ!っと、うっちゃん、あぶねぇって」

シャンプーの自転車をよけながら右京に注意を向ける乱馬。
だが、当の二人はまったく乱馬のコトバを聞いていない。

「シャンプー、何ゆーとんねん。今日は乱ちゃんはうちでお好み焼き食べるんや!」
「右京こそ、乱馬に強制、よくないね!乱馬、今日は猫飯店で新作の肉まん食べるね!」

互いににらみ合い、一歩も譲らない二人。
その姿はまるで、コブラVSマングースのよう…。

「あ…あのぉー…?」
「乱ちゃんは黙っといてんかっ!!」
「そうね!乱馬は引っ込んどくね!どっちが乱馬にふさわしい女か、今ここで勝負するアル!」

こうなると、もはや誰にも止められない。
ということは、乱馬は今日はお好み焼きもラーメンも食べれない、ということである。

「はぁぁ〜。腹減ったなぁ…」

そんな乱馬の呟きも、対戦モードの二人の耳には届かない。
仕方なく乱馬は、帰りに商店街でなんか食いもん買おう…。と考えながら教室を後にした。




「あれ…?あかねじゃねーか。なんだ?用事って、買い物かよ」

商店街を一人歩いていた乱馬、前方に見慣れた制服姿のあかねを見つける。
その隣にいるのは…。和服姿の女性。

「ん??あれ、…おふくろじゃねーか…。なにやってんだ?あかねのやつ」

確かに、あかねと一緒にいる和服姿に日本刀を担いだ姿は、まぎれもなく乱馬の母親、早乙女のどかである。
あかねとのどかは、精肉店の前で商品を選びながら楽しそうに会話していた。

「なんでい。あかねのやつ。おふくろに会いに行くなら行くって言えばいいのによ。」

ぶつぶつ文句を言いながら、乱馬はこそこそと二人の後をつける。
精肉店でなにやら買い物をした二人。
どうやら買い物は終わったらしく、そのまま商店街を抜けていく。
…この方角は。

「へ…?おれん家??」

和やかに談笑しながら、あかねはのどかに続いて乱馬の家に入っていく。
その後姿を、乱馬は電柱の影からやきもきしながら見守る。

「何やってんだ?あいつ。おれん家で…」

くっそぉーっ!おれん家なのに、おれが入れないってのはどーいうことだよっ!ちっくしょーっっ!!

ん?ちょっと待てよ…。
あるじゃんっ。おれん家に入れる唯一の方法がっ。

ふっふっふっ…と一人呟きながら、電柱の陰にかくれる男、早乙女乱馬。

その姿は、どこからみても完全に不審人物であった…。




そのころ、早乙女家では…。

「それじゃ、おばさまっ!今日もよろしくお願いしますっ!」
「はい。がんばろうね。あかねちゃん」

制服の上から、持参したピンクのエプロンをつけて、台所で包丁を握るあかねがいた。

「じゃあ、あかねちゃん。そのウィンナーを一口大に切ってくれる?」
「はいっ!」
「あせらなくていいからね。ゆっくりと…ね」
「はいっ!」

のどかの穏やかな言葉に励まされて、目の前に転がるウィンナーを切っていくあかね。

「できましたっ!」
「あら、あかねちゃん上手よ。んじゃ、次はフライパンに油、ひいてもらおうかしら」
「はいっ!」

のどかの言葉通り、火にかけたフライパンに、サラダ油を入れていくあかね。
…と、突然フライパンから火が。

「きゃぁぁっ!!」
「おしいっ!ちょっと油の量が多かったみたい」

慌てて火を消しながら、のどかが笑顔であかねにアドバイスをする。

「そっかー。ちょっと入れすぎちゃいましたね。次は気をつけないとなー」
「ドンマイ」
「がんばりますっ!!」

乱馬の誘いを断って、一目散に学校を出たあかね、行き先は早乙女家である。
ここ一週間、乱馬の母親であるのどかに料理を教えてもらっているのだ。

事の起こりは、先日天道家唯一のスーパー主婦である長女かすみが病気で倒れたときのこと。
たまたま天道家を訪れたのどかが、あかねや乱馬と一緒に料理を作った。
実は、あの後こっそりとあかねはのどかに料理を教えてもらう約束をとりつけていたのだ。
そして、それ以来毎日、学校帰りに早乙女家に寄ってはのどかに料理を教えてもらっているのである。

練習の成果は亀の歩みより遅いが、確実にあかねは上達しているのだ。

「あら、そろそろご飯が炊けたかしら。あかねちゃん、炊飯器のご飯、混ぜてくれる?」
「あ、はいっ!」

…とそのとき。



「おばさまーっ。おじゃましまぁーっすっ」

玄関からあかねには馴染みのある声が…。

「あらっ。乱子ちゃんじゃない。いらっしゃい」
「きゃっ!お久しぶりですぅっ。おばさまっ!」

見ると、さっき学校で別れたばっかりの許婚が、なぜか女の姿で目の前にいる。
水をかぶると女に変身してしまう男、早乙女らんまである。
そして同時に、のどかの前では「あかねちゃんのいとこの乱子ちゃん」だ。

「あーら、乱子ちゃん。どーしたのよ」
「あーら、あかねちゃんこそ。おばさまと何してたのぉ??」

玄関まで出てきたあかねにむかって、らんまは無邪気な笑顔で気になっていた質問をする。
ちなみに、手はグーにして口元である。
中味が男なのに、なぜこんなにも立派な(むしろ立派過ぎる)女になれるのだろうか??

「乱子ちゃんには関係ないわよっ」
「えー??あかねちゃんってばぁ、そんなこといわないでよーっ。ねっ、おばさまっ」

あかねの怒りが伝わったのか、あかねから答えを得られないと知ったらんま、すかさずのどかに話を振る。

「あら、今あかねちゃんとお料理作っていたのよ。乱子ちゃんもおばさんと一緒に作る?」
「お…おりょ…う…り???」


思わず声のトーンを下げて、らんまは顔を引きつらせる。

「そうよ。あかねちゃんずいぶんうまくなったのよねー、乱子ちゃんもいらっしゃいな」

そういって台所に消えるのどか。

「おめー…家ン中だけじゃ飽き足らず、お袋にまでおめーの手料理食べさせる気かよ…」
「何言ってんのよ。あたしはただ、おばさまに料理を教えてもらってるだけなんだから。もう、乱馬は邪魔しないでよっ!」
「いや…あの殺人的にまずい料理をおふくろにまで食べさせるわけにはいかねぇ。いいか、あかねっ!これ以上被害が広がらないうちにかえっ…」
「乱馬の…ばかーっっっ!!!」

らんまが最後まで言い終わらないうちに、あかねの見事なスクリューアッパーが決まった。
そして、らんまは初夏の空の中へと飛んでいく。
ばっきゃろーっっ!!…という雄たけびを残して…。

「あら?乱子ちゃんは??」
「あ…なんか用事ができちゃったみたいです」
「そう。残念ねー。それじゃぁ、あかねちゃん。つづけましょうか」
「はいっ!」




一方、飛ばされたらんまはというと…。

「ちっくしょー…あかねのやろー。心配してやってんのに…。でも、なんでお袋と料理なんか作ってんだ??」

はるか彼方の住宅の瓦屋根に頭から突っ込んでいた…。




「できたぁっ!!」
「よかったわね。あかねちゃん。きっと喜んでくれるわよ」
「ありがとう!おばさまっ!!」

長い1日がようやく終わろうとした夕暮れ。
早乙女家の玄関から出てきたあかねの手には、握りこぶし二個分ぐらいの大きさの風呂敷包みがひとつ…。

さ、早く乱馬に会わなくっちゃっ!

急いで走って帰ろうと、角を曲がったそのとき…。

「きゃっ!」
「おいっ!あぶねーなぁ…。大丈夫かよ」

目の前には赤いチャイナ服…。
顔を上げると、そこには…。

「らっ…乱馬!!」
「よお。用事は終わったのかよ」

さっき思いっきり吹っ飛ばした許婚が、今度はちゃんと男の姿であかねの前にいた。
ちょっと、鼻の頭が赤くなっているけど…。
これは、さっきのアッパーのせい???

「う…うん。どーしたのよ?乱馬」
「え?いや…。ちょっと気になったからよー。なんでおふくろと料理作る羽目になったのかさ」

そういいながら、ちょっぴり赤くなった鼻の頭をこりこりと指でかく。
あ、そっかー。心配してくれてるのね。

「おばさまにお料理教えてもらってたのよっ。この間うちでご飯作ってくれたでしょ?そのときにこっそりお願いしてたの」
「あー…あん時か。ふーん…。で、ちょっとはマシになったのかよ?」

そういって、乱馬はいつものいたずらっ子の顔になってあかねを見下ろす。

「ま、ムリだろうなー。不器用なおめーに、お袋も苦労しただろうなぁ」
「不器用で悪かったわねっ!うまくなったわよっ!おばさまのお墨付きだもんっ!!」
「へぇ…。おふくろって、実はすんげー味オンチなんじゃねーの?」
「なによっ!!そんなにゆーなら食べてみなさいよっ!!ほらっ!!」

そういいながら、あかねは手に持っていた風呂敷包みを乱馬に渡す。
風呂敷を空けてみると…。

「…おにぎり???」
「そうよっ!!コレを教わってたのよっ!悪いっ??」
「いや…。でも、コレって…三角おにぎり…だよ…なぁ??」
「そうよ…」
「…ばくだんに見えるのは…おれの…気のせい…か?」
「形ばっか見てないで、さっさと食わんかいっ!!」

あかねの蹴りを軽々とよけながら、乱馬はもごもごと「いや、ちょっと心の準備が…」などとつぶやく。

「もうっ!!ちゃんと食べてよっ!!せっかく乱馬の為に作ったのにっ!!!」
「へ???」

目に涙をためてそう叫ぶあかねに、思わず乱馬の動きが止まる。

「おれの…ため???」
「そうよっ!!いいから早く食べなさいってばっ!!」

…あかねの涙にはめっぽう弱い乱馬。恐る恐るそのおにぎりを口に入れる。

「…く…食える。…っていうか、普通にウマイ…」
「でしょっ?でしょっ??」
「…あれ。この具って…??」
「あ、わかった?それ、おば様に聞いたの。子供の頃の乱馬が一番好きだったおにぎりの具だったんだって」

おにぎりの中には、一口大に切ってよく焼いたウィンナー。
普通の一般家庭ではまず入れないであろうこのウィンナーは、早乙女家のオリジナルメニューである。

「そういや…昔、食べたことあるかも…」
「でしょっ?この間、うちのお母さんのお料理ノートが出てきたときあったじゃない?そのとき、乱馬寂しそうだったから…」

だから、乱馬の「おふくろの味」を教えてもらおうと思ったのよっ。

あかねは小さくそう続ける。
そう呟くあかねは、とってもいじらしい。

「そっか…。さんきゅー、あかね」
「ううん。おいしくできて、良かった」

乱馬のその言葉に、満面の笑みで答えるあかね。
そのあかねの笑顔に、乱馬はおもわずドキッとしてしまう。


か…かわいいかも…。


「…なぁ…あかね」
「さ、帰ろっか。乱馬」

何か言い出そうとした乱馬に気づかないあかねは、一人でずんずんと歩きだす。

「お…おいっ!」
「早く帰らないと、お父さんたち心配しちゃう。かすみおねえちゃんの夕食も食べなきゃね」


振り向いて、再度満面の笑顔。


…勝てねぇ。おれは絶対にこいつの笑顔にだけは勝てねぇ気がする…。
その笑顔を見ながら、思わず乱馬は肩を落とす。

「ったく、ほんとに鈍感な女だよなー」
「ん??なんか言ったぁ?」
「なんでもねーよっ!」

そう叫んで、乱馬はあかねを追いかけた。
乱馬の為に初めて「おふくろの味」を覚えてくれた許婚のところへ








2ヶ月経って読み返してみて、本気でまとまりないなぁ…と実感した話です(笑)
たぶん…乱あ小説の書き始めで、勢いだけで書いていたからかも…だけど。
にしても、ちょっとひどいですね。
ちょこちょこ手直ししましたが…チカラ及ばず…です…。

そして、元ネタは原作でもあるあかねちゃんと乱馬くんのお料理対決です。
OAVでは「らんまVSあかね!お母さんの味は私が守る」ですね。
この話のあかねちゃんがホントにかわいくって〜っっ。
のどかさんとの息もぴったりで、将来嫁姑関係はばっちしねvvみたいな(笑)
そんな2人(あかねちゃんとのどかさん)の仲良しエピソードを書きたくって…作ったお話ですv


キリリクで書いた続編が読みたい方はコチラをクリック♪


(05/07/25 作成   05/09/13 加筆修正)





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