ドキドキデート  後編






映画館で今話題のカンフー映画を見終えたあたしたち。
かるく感想なんていいながら映画館を一歩出たところで…。
なんかやわらかいものがあたしの足にぶつかってくる。

「わっ…っ!」
「えっ…?ぼく、大丈夫??」

見ると、あたしの右足にしがみつくかのように…男の子?
2,3歳ぐらいかなぁ。
よいしょっとしゃがみこんで顔を覗き込んでみると…。
あらら、涙で顔がぐしゃぐしゃだわ。

「ぼく、どうしたの?おかあさんは?」
「ママーっっ!!」

あたしの問いかけに聞く耳すらないみたいに、男の子は大きな声で泣き出した。
ひとまず周りを見渡すと、お母さんらしき人影が…ないわね。

「どうかした?」
「なんか…迷子みたい」

乱馬…じゃないか、今はそうたくんだったわね。
その、偽そうたくんが心配そうにあたしに声をかける。

「迷子??」

偽そうたくん、そういうとあたしの隣にしゃがみこんで、男の子の顔を覗き込む。

「うわあぁーんっっ!!」
「おいこら、ぼうず?泣くなよ。男だろ。おめー」

そういいながら、偽そうたくんってば、涙でぐしゃぐしゃになってる男の子の顔を手で挟んで、うにぃ〜ってほっぺたをのばしてる。

…ああもおっ!めんどくさいっ!
乱馬でいいや。
っていうかさー。乱馬ってば、すっかり素になってますけど??

「そうたくん…。迷子になってるのに男の子とかあんまり関係ないとおもうわ。あたし」
「そっかぁ?男は強くなきゃなんねーだろ?お袋がいねーぐらいで泣くなよ。なっ」

…ムリでしょ。それは。
乱馬じゃないんだから。

「わあああああんっっっ!!」
「ほらほら。そうたくんがほっぺたのばすから」
「そっかぁ?かんけーねーだろ??…で、どう…する?はるかちゃん」

…途中で思い出したわね。自分が「そうたくん」の身代わりしてるってこと。

「ねぇ、ぼく?お名前なんていうの?」

ひとまず乱馬から男の子を引き離して、あたしは優しく聞いてみることにした。
迷子なんだから、案内所で迷子案内のアナウンス流してあげなくっちゃね。

「…ひっくっ…。…りょーが…」
「りょ…良牙だぁ??」

…だから、乱馬ってば反応しすぎだから。
だけど、良牙くんと同じ名前だなんて…なんだか親近感わくじゃない。

「りょうがくんっていうの?今日はおかあさんと一緒にきたのかな?」
「うんっ。ママとえーが、見にきたの」

そういって、りょうがくんはにっこりと笑う。
やだ、かわいいっ!!

「ママと一緒に来たのかよ。…んじゃ、ママもこいつを探してるよな?」

そう言うと、乱馬ってばひょいっって感じでりょうがくんを持ち上げて自分の肩に乗せる。

「ほら、これでママ探せよなっ」
「うわぁぁぁっ!おにいちゃん、たかーいっっ」

おめー、ぜってーに帽子脱がすんじゃねーぞっ!とかいいながら、乱馬ってばりょうがくんを肩車してあげる。
たしかに、これならりょうがくんのママも探しやすいわよね。
へぇ…乱馬ってば、意外と小さい子に優しいじゃない。

「ねぇ…肩、重くない?」
「全然大丈夫だぜっ。ほら、ぼうず。しっかりママを呼べよーっ」

あたしの質問に、すっかり素なままで答える乱馬。
こうやってみると、お父さんと息子みたいだわ。
…まぁ、ちょっとお父さんが若すぎる感じだけどね。

で、隣りにいるのが「はるかちゃん」だってこと、乱馬、覚えてんのかしら??

そんな感じで、しばらくりょうがくんを肩に乗せたまま2人で映画館の周りをうろうろしていると…。
前方から女の人の叫び声。

「りょうがっっ!!」
「あっ!!ママだーっっ!!おにいちゃんっ!!ママだよっ!!」

そういいながら、りょうがくんってば、乱馬のキャップを掴む。
だぁぁっ!おれの帽子を掴むなってっっ!!という叫びもむなしく、乱馬のトレードマークのお下げがキャップからこぼれる。
あーらら。

「あら。ほんとだ。あの人じゃない?りょうがくんのママ」

一応、乱馬のお下げには気づかないふりをしつつ、あたしは前方から走ってくる女の人を指差す。
乱馬もその女の人を確認して、りょうがくんをおろして慌ててキャップをかぶりなおす。

「ママーっっ!!」
「よかったわっっ。もう、どこにいっちゃったのかと思って…。あ、ありがとうございましたっっ!!」

乱馬の肩から降りたりょうがくんは、一目散におかあさんに抱きつく。
しっかりと親子の対面を果たした二人を見て、思わずあたしと乱馬はほっと一息。

「この人ごみにすっかりはぐれちゃいまして…。どうしようかと途方にくれていたところだったんです」
「ママっ。このおにいちゃんが肩車してくれたんだよっ!」

おかあさんはそういって私たちに頭を下げると、りょうがくんがにこにこ笑顔で乱馬にじゃれつく。

「だぁーっ。懐くなってっ!!でもま、よかったなっ!ぼうずっ!」
「ぼうずじゃないやいっ!」

相変わらずじゃれつくりょうがくんの頭をくしゃっとしつつ、乱馬はあたしを見て笑う。
その笑顔があんまりに優しいから、あたしも思わず乱馬に笑顔を返しつつ…。

「よかったわねっ!乱馬っ!」
「おう!…へ?!」

あ…ついつい乱馬って呼びかけちゃった。
気づかないかと思ったんだけど…固まってる。

あちゃー…。

「ほんとうに、ありがとうございました」
「おにいちゃん、おねえちゃん!またねーっ」

あたしと乱馬の間のこの空気を知らずに、りょうがくん親子はにこやかな笑顔でその場を去っていった。
残されたのは…。
かちんこちんに固まった乱馬と、どうしよっかなーなあたし。

「えっと…???はるか…ちゃん???今、なんて…???」
「えへへ??」

…ま、いっかぁ。よく考えたら、お互い代役同士なワケだしねー。
っていうかさー。
ここまできて、なんで乱馬はまだあたしに気づかないかなー。

「乱馬でしょ?最初っからわかってたわよ?あんたなんでメル友のそうたくんの身代わりなんてしてんのよ?」
「え?へ??あの…なんでおれを知ってる…の??」

…あのさぁ。あたし、しゃべり方をあかねに戻したんですけど。
それでも気づかないわけっ!?
ほんっとに、いい加減なんだからっっ!!

「まだわかんないのー??あたしは声でわかったんだけど…。まったく」

そういいながら、あたしはロングヘアーのカツラをとる。
これでわかるでしょ?さすがに。

「あ…あ、かね…???」
「まったく!!許婚の声ぐらい聞き分けてよねっ!!」

マジマジとあたしを見る乱馬。
まぁね、確かに普段のあたしらしかぬ格好だけどね。
そんなに驚くことないじゃないのっ!!

「へ??おめーこそ、なんで「はるかちゃん」の身代わりなんてしてんだよ」
「…なんでって…頼まれたからよっ。クラスメイトだもん」

あたしのこの言葉に、乱馬ってばはてな?っていう顔をする。
こいつ…はるかのこと頭にないな。さては。

「へ…?いたっけ??そんなヤツ」
「いたわよっ!今日風邪でダウンしちゃったから、身代わり頼まれたのっ!…で、乱馬こそどうしたのよ??」
「あー…ちょっと、な」
「なによ?」
「…ちょっと、ムースとのケンカに巻き込んじまってさ」

…やっぱり。
どうせそんなことだろうと思ったわよ。
まったく、ほんとにケンカっぱやいんだから。

「で?そのそうたくんはいまどこにいるの??」
「んぁ?いるぜ。ほら、あそこに」

…そういって、乱馬は後ろを振り返る。
あたしも一緒に見てみると…電柱にかくれるように、一人の男の子。
…あれが、そうたくん??
なんだか、とっても子供に見えるんですけど…???

「え???そうたくんって…あの子が?」

明らかに、小学生…よね。
あれ?
はるかの言い方だと、同じ年ぐらいの男の子…じゃなかったのかなぁ。

「そっ。あれが『颯太』12歳、小学六年生」
「へ???」

呆然としたあたしに、乱馬は溜息一つで説明してくれる。

「だーかーらーっ。あいつ、なんか年齢隠してメールしてたらしいぞ?んで、いざ会うってなってうろうろしてるところで、おれが巻き添えくっちまったってわけだよ」
「巻き添えって…でも、ケンカに巻き込んだのは乱馬なんでしょ?」
「おーよ。巻き込んじまったから、しぶしぶ協力してやったんだよ。な」

そう言って、乱馬はおずおずとあたしの前に出てきた颯太君の頭をぐしゃぐしゃとつかむ。

「えーっと…。あなたが颯太君?」
「は…はい。…ごめんなさい」

同じ目の高さになるように少しだけかがんで、あたしは颯太君の顔を覗き込む。
颯太君は、しょぼん、っていう感じにうなだれちゃってる。
あらら。
とっても素直そうないい子じゃない。

「あたし、あかねっていうの。今日ははるかちゃんが風邪ひいちゃって、身代わりを頼まれたんだけどね」
「あ…はるかちゃん、風邪ひいちゃってるんですか?大丈夫なんですか?」
「うん。大丈夫よ。でも…どうする?颯太君」

うん。はるかの風邪は明日にでも回復するだろうけど。
颯太君のこと、はるかに正直に話しちゃっていいのかしら?

「あ…」
「おめー。ちゃんと正直に話しといたほうがいいんじゃねーの?」

颯太君が何か言いかけると、それをさえぎるように隣りに立っている乱馬が颯太君の頭を押さえて強く言う。
んもう。相変わらず乱暴モノなんだから。

「どーせ、んなうそ、ばれるぞ?」
「で…でもっ…」
「そうね。お姉ちゃんもそう思うわ」

そうなのよねー。
言い方は悪いけど、乱馬のいう事ももっともなのよね。
やっぱり、うそはよくないと思うもん。

「あかねもそう思うだろ?なのに、こいつ、その「はるかちゃん」に惚れちまったらしくってよ。んで、同じ年って言っちまったらしいぞ」
「あっっ!!なんてこと言うんですかっっっ!!」
「ああー??何いっちょまえに照れてんだよっ。いーじゃねぇか、こいつははるかちゃんじゃねーんだからっ」
「そうよ。颯太君の気持ち、はるかちゃんには内緒にしてあげるから。でも、ちゃんと自分のことはきっちり話したほうがいいんじゃない?」
「あかね…おねえさん」

あたしの言葉に、颯太君は少しうつむいて考えるしぐさをする。

そして、顔を上げて。

「わかりました。ぼく、ちゃんと言います」
「よーしっ。それでこそ男だぞっ」

きっぱりと言い切った颯太君に、なぜか乱馬が嬉しそうにうなずく。
ふぅん。意外な感じだな。
乱馬がこんなにちゃんと考えてあげるだなんて。

「でも、僕からちゃんと言いたいんで、あかねお姉さんからは言わないでもらえますか?」
「うん。わかったわ」

そうよね。
そういうことは、ちゃんと本人から言ったほうがいいわよね。

「それじゃ、今日は颯太君には会えなかったってことにしとくから。ちゃんとはるかに連絡してあげてね」
「はいっ」





そして、帰り道―。


「ほんと、なんで乱馬はあたしのこと、気づかないかなー?」

あたしはちゃんと一瞬でわかったのにな。
なんだか、くやしい。

「なっ…。だっ…だっておめー…ありゃぁ、変わりすぎだぞ」
「そぉ?でも、声はあたしじゃない。それに、顔だって別にお化粧とかしてたわけじゃないし」
「そ…そりゃそうなんだけどよー」

そういいながら、乱馬ってば口の中でもごもご言っている。
そうじゃなかったらなんなのよね?
まったく。男ってほんと、女の子のことわかんないんだからっ!
いくら髪型が変わったからってね。

「それに、よく考えたら乱馬と出会った頃のあたし、髪の毛長かったじゃない」
「あー…そ、そうだったな…」
「そうよっ。だから、髪が長いからわからなかった、とかおかしいわよ」
「…そ、そうっすねー」

あたしの言葉に、すごすごって感じで乱馬は肩をすくめる。

ま、仕方ないか。

でも、ちょっと今日はラッキーだったかな。
乱馬の意外な一面見れたしね。


「でも、意外だったなぁーっ」
「何がだよ」
「乱馬が小さい子に優しいだなんて」
「ああー?オレはいつだって、誰にだって優しいぜ?」
「そう?」
「そうだよっ」

ちょっと意地悪な笑い方で下からのぞき見たあたしに、なぜか乱馬は顔をそらしてぶっきらぼうにつぶやく。
何よ。変な乱馬。

そういえば、チャイナ服じゃない乱馬とこうして並んで歩くだなんて、新鮮だわ。
なんだか、ほんとにデートしてるみたい。


ま、たまにはこんな日があってもいいよね。
うん。


夕焼けを背中に受けて、あたしはそんなことを考えつつ天道家の門を開けた。








ふははははははっ。
笑っとけ笑っとけ(涙)
書きながら、収集つかなくなってしまったお話です。

ネタは「DOCO FIRST」の「赤い靴のSUNDAY」という歌を聴いて考えたものです。
この中であかねちゃんのパートがすっごく好きでvv
かわいいんですよ〜っっvv
「追われて 呼ばれて うるうる涙
 許して 助けて 見逃して
 右手をつかんでる
 …あなたなの」
というフレーズなんですが。

コレを聴いて、当初はあかねちゃんが乱馬くんに気づかなくって怖がる…という話を書きたかったんですが。
よく考えると、原作でもアニメでも。
あかねちゃんだけはかならず女らんまの変装を見抜いているんですよね。
(まぁ、良牙くんがだまされすぎ、という説もありますが…笑)
むしろ、乱馬くんはあかねちゃんが変装して見抜けるのか?!と思いまして…。

で、できたお話です。

コレ、実は今回のを「あかねちゃんSide」としまして、実は「乱馬くんSide」と言うものも考えておりました。

ええ。
いわゆる「視点モノ」というものにチャレンジしようかと…。

でも。
乱馬くん視点でお話を進めるのがとってもニガテなので、ひとまずこっちだけアップ(苦笑)

まぁ…もしかしたら…乱馬くんSideもいずれアップする…カモ???(超弱気)

(2005/09/27  作成)


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