早起きは三文の徳



「あっ……」

 珍しく朝から早朝ロードワークなんかしてみたりして。
 帰ってきたらかすみさんが作ってくれた朝食をゆっくりと食べて。
 いつものように「早く早く」とせかすあかねの後姿を見ながら天道家を出たおれの頬に心地よく吹き付ける秋の風。
 見上げたら青空がぐんっと高く広がっていて。
 隣にはいつものあかね。
 なんだか気分がよかったからフェンスの上じゃなくってアスファルトの上をてくてくと歩いていたおれのほうを見て、あかねが小さくつぶやく。

「ん? なんだよ」
「ごはんつぶ」

 あかねが立ち止まるからおれも一緒になって立ち止まると、上目遣いにおれを見上げて小さな白い手で俺の頬を触る。
 その手には白い米粒が一つ。

「ほんと、子供みたいね。乱馬って」
「うるせぇよっ」

 おれの頬についていた米粒を自分の口に放り込んで、あかねはにっこりと笑う。
 秋の空、涼しい風にあかねの笑顔。

 あー…。
 なんか、たまには早起きってのもいいもんだな。

 そんなちょっと邪なことを考えていたおれの頬を、涼しくなった秋の風がさらりとなでていった。


(web拍手用テキスト『不意打ち』 加筆修正 05/12/14)



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