9.向日葵の咲く道




「ねぇ乱馬」

夏休み明けの学校はだるい。
9月になったっていうのに、全然涼しくなんねーし。
だいたいなんなんだよ、このうだるような暑さは!

「乱馬?乱馬ってばっ。なにふてくされてんのよ?」

フェンスの上でひたすら暑さと戦っていた俺に向かって、フェンス下のあかねは涼しい顔してこっちを見上げる。
ってぇか、なんでそんなに涼しそうな顔してやがんだよ?暑くねぇのか?

「ぁあ?なんだよ」
「何怒ってんのよ?」
「…なんでもねーよ。で?」
「ほらほら。アレ見てよっ!」

おめーがあんまり涼しそうな顔してるからだよ、とはさすがに言えず、俺はフェンスの上でしゃがみこんで、あかねが指差すほうをしぶしぶとのぞき見る。

「なんでぇ。ひまわりじゃねーか」
「うん。知ってた乱馬?こんなところにひまわりが咲いてただなんて」

そういいながら、あかねは公園脇にひっそりと咲いているひまわりのほうに向かって歩き出す。
んで…なんとなくオレもつられてフェンスから降りて、あかねの後ろをついていく。

「もう9月なのにねー」
「あっちいから、こいつもまだまだ夏だと思ってんじゃねーの?」
「まぁねー。確かに9月になったのに全然涼しくならないもんね」

なんだよ。やっぱりおめーも暑いのかよ。
全然そんな風にみえねぇけどな。

「ねぇ、乱馬。知ってる?ひまわりの花言葉」
「はなことばぁ〜?んなもんオレが知ってたらこえーだろうが」

そりゃ、そうだわ。
オレのセリフにあかねはもっともな顔してうなずく。
悪かったな。どうせ知らねぇよ。
男にんなこと聞くなよな。

「ひまわりの花言葉は『憧れ』とか『敬慕』とからしいんだけどね」
「『けいぼ』…?なんじゃそりゃ」
「尊敬して敬うことよ。…あんたねー。もうちょっと国語、勉強しなさいよね」
「格闘家に国語なんて必要ねぇんだよっ」
「そぉー?言葉は知っといたほうがいいわよ?大人になって子供にバカにされても知らないんだから」
「へっ。オレが知らなくってもあかねが知ってたらいいんじゃねー…じゃなくってっっっ!!えっと、で?その花言葉がなんだよ???」

あ――――っっっ。
焦ったぁぁぁぁっ。
今、すんげぇ口が滑ったぞ。
…気づいてねぇだろうな?こいつ。


「何よ。変な乱馬」

ふぅぅぅ。
気づいてねぇ。
本気で、こいつが鈍くてよかったぜ。

「そうそう。敬慕よ。乱馬にとって、憧れの、尊敬する人って誰?」
「あ…尊敬する人ぉー???」

尊敬する人???


…。


「いねぇな」
「ほんっとにあんたって、ちゃらんぽらんよね。尊敬する人もいないわけ??」
「いねえって。だって、オレは格闘と名のつくものには負けたことがねぇんだぜ?だから、オレが一番なわけだよ」
「…ほんと、あんたのその能天気さだけは、どーにかならないのかしらね」
「どーいうことでいっ」

ったく、なんだよ。人に話し振っといて…。
ん?そういうあかねこそどうなんだよ。

「おめーこそ…いんのかよ?その…憧れの人、とか」
「あたし?あたしはかすみおねえちゃん」

おれの質問に、打てば響く勢いであかねはこう答える。
あ…なるほどなー。
確かに…な。

「何よ、その顔」
「いや…確かにかすみさんに憧れるあかねの気持ちは痛いほどわかるなぁーって」
「…どういうことよ」
「だってよぉ…とても姉妹とは思えねぇぐらっ…いってぇぇ」

あかねの隣りでうんうんとうなずくオレに、相変わらずカバンが飛んでくる。

「なによっ!わかってるわよっ!!どーぜあたしはお姉ちゃんみたいに女らしくもないしお料理もお裁縫もできませんよーだっっ!!」
「わかってんじゃねーか」
「だからこそ憧れるんでしょっ!!まったくっ。ほんとに腹が立つわねーっっ!!」

そういいながらぶんぶんと振り回すあかねのカバンを身軽な動きで避けつつ、おれは一人ひっそりと思う。

でもよー。
あかねはやっぱりこのまんまがいいと思うぞ?
下手に女らしくなるよりな。
やっぱ、思いっきり笑って、怒って、元気なほうがあかねらしいもんな。


…ま、もうちょい料理の腕だけは磨いてほしいところだけどよ。


そんなオレとあかねの口げんかをBGMに、道の片隅に咲いたひまわりは、ひっそりと風に吹かれて揺れていた。







珍しく、さくっと書けた乱あです。
帰り道での2人の会話が頭の中で想像できちゃって。
さらさらさら〜っという感じでかけちゃいました。

最近、乱馬くん視点で書くのが楽しいです。
うん。
やっぱり好きだなーv
ヘタレ乱馬くんと天然あかねちゃん(笑)

(05/09/08 ブログ発表分  05/09/17 加筆修正)





戻る