5.日焼け






夏休みに入ってすぐ、あたしたち家族は近くの海へと海水浴に来た。
娘二人が夏休みだし、かすみおねえちゃんもちょっとは休ませてあげたい。
きっと、お父さんはそう思ってくれたのかな。
…まぁ、たぶん早乙女のおじ様がダダこねたっぽいけどね。

「はい、あかね。今年は紫外線キツイらしいわよ。しっかり縫っときなさいよー」

なびきおねえちゃんが一言忠告をしながら、あたしに日焼け止めクリームを渡してくれる。
たしかに、じりじりと照りつける日差しは、ちょっと皮膚に痛いぐらい。
おねえちゃんの忠告どおり、自分の腕に念入りにクリームを塗りこんでいると…。

「あかねっ。何やってんだよ?」
「乱馬。どこ行ってたのよ?」

見ると、水をかぶると女になってしまう許婚が、女の姿でそばに立っている。
ここについたときはしっかり男だったのに、いつの間に女になったんだろ。
しかも、しっかりと女物のセパレートの水着着てるし…。

「んあ?着替えだよ。き・が・えっ」
「え?まさかあんた、女子更衣室にはいったんじゃないでしょーねっっ」
「バカ言うなよ。おれは男だぞっ!」
「…今は女じゃないのよ」

自分の豊かな胸に親指向けて「男だ」って威張られてもねー…。
女で海に入る気満々じゃないの。

「だっておめーよ。せっかくの海だぜ?こんなにあちぃのに、入らない手はねーだろうがっ」
「…そりゃそうだけど」

そういいながら、乱馬は着替えの入ったカバンから浮き輪を取り出す。

「へぇ?乱馬が浮き輪使うなんて珍しいじゃない?」
「何いってんだよ?」

ぷぅ〜っと浮き輪を膨らまして、乱馬ってばそれをあたしの身体に通す。

「コレはおめーのだよっ。さ、泳ごうぜっ」
「…乱馬ぁぁぁっ!!!」
ぐっと握った右手で想いっきり乱馬の顔を殴ろうとした…そのとき。

「あら、乱馬くんもちゃんと日焼け止めクリーム塗らなきゃだめよ」

すかっ…。

かすみおねーちゃんがあたしと乱馬におっとりと話しかける。
おねえちゃんったら…。
おもわず、前のめりになっちゃったじゃない。

「えー…めんどくせぇよ。んなもんいらねー」
「あーら。私は塗っておいたほうがいいと思うわよ?」

乱馬がかすみおねえちゃんの言葉に顔をしかめると、なびきおねえちゃんが横から冷静に突っ込む。

「乱馬くんも、今は女の子なわけだし」
「あのなぁ〜っ!おれは男だっ…つってんだろっ!」
「いいんじゃない?一応乱馬は男なんだし。わざわざ日焼け止めクリーム塗らなくても」

乱馬じゃないけど、あたしも別にいらないと思うなー。
まぁ、日焼けしたところで、男に戻れば関係ないわけだしね。

…って思ってたのに、なびきお姉ちゃんってば、あたしのその言葉を聞いて肩をすくめる。

「まぁ、いいわよ。私は忠告したからね?」

何よ。その言い方?
へーんなの。

「一応ってなんだよっ!一応って!!!このずん胴女っ!!」
「なっ…なんですってぇぇっ!!!」
「カナヅチでずん胴なんだから、夏は憂鬱だよな〜っっ」
「なによこの変態っ!!」
「変態ってなんだよっ!!ったく、相変わらずかわいくねー女っ!」
「あんたにだけは言われたくないわよっ!!」

そのまま乱馬との口げんかに発展しちゃったから、なびきお姉ちゃんのこの意味深な忠告に気づかなかったのよねー。

まぁ、それは後にわかるんだけどね。




翌日…。

「でぇぇぇぇっ!!!なんじゃこりゃぁぁっ!!」

朝から一人で稽古をしているはずの道場のほうから乱馬の叫び声が…。

「乱馬―っ?なに騒いでんのよーっ…へ…???」
「あらあら」
「ら…乱馬くん…コレはいったい」
「乱馬よ…父は悲しいぞ」

家族みんなで道場に行くと、そこには上着を脱いだ乱馬の姿が…。

「やだっ…あんたってば…。その日焼け」
「ちょっとはずかしいわねぇ。乱馬くん」
「乱馬くん〜っっ。ちょっと情けなさ過ぎるよー」
「…おぬし、女の状態で日焼けしおったな」

乱馬の上半身には、男としてはありえない日焼けのあとが。
っていうか、あきらかに、女物の水着のあとじゃない…それ。

「だから、私が忠告してあげたのに」

少し遅れてやってきたなびきお姉ちゃんが、道場の入り口で一言つぶやく。

…そ、そういうことだったのね。

「ぐっそおおおっっっ!!!」
「ふっ…相変わらず未熟者ね」



おれは絶対に完全な男に戻ってやるーっっっ!!!



その日、道場には乱馬の雄たけびがこだましていた…。







『日焼け』…悩みに悩んでギャグ路線。
っていうか、絶対にそういうふうに焼けてるはずだよね。夏は。
でも…乱馬くんがせっせと日焼け止め塗ってるのもイヤだしなぁ…。


(05/08/11 ブログ発表分   05/09/17 加筆修正)





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