1.自分以外




「あいやぁっ。乱馬っ。朝から私に会えて、うれしいか??」
「うわぁぁっ!シャンプーっ!!遅刻するだろーがっっ!!」

猫飯店での朝の仕込みが少ないときは、シャンプーは愛用の自転車で乱馬に会いに行く。
そして、乱馬を見つけるたびに、自転車から飛び降りて乱馬に飛びつくのが、シャンプー流の朝の挨拶だ。

「乱馬ー。先に行ってるわね〜。ごゆっくり」

毎朝一緒に登校しているあかねが、シャンプーに飛びつかれて道に転がる乱馬の顔を思いっきり靴で踏みつけて、いやみたっぷりな笑顔で一言。
これも、シャンプーが登場するたびに繰り返される日課である。

「ちょっ!!待てよあかねっ!!」
「乱馬。私とデートするねっ」
「できるかっ!!学校行かなきゃなんねーんだよっっ!離せシャンプーっ!!」

乱馬の首に抱きついたまま、頬ずりをしているシャンプーを引き離そうとする乱馬。
そんな乱馬の様子にはお構いなしで、シャンプーは一向に離れない。

「頼むっ!!今日遅刻するとやべぇんだよっ!!なっ!」
「…そか。それじゃ、今日学校終わったらデートするか??」
「へ…??」

乱馬への頬ずりをやめて、至近距離で乱馬の顔をのぞくシャンプー。
あまりにシャンプーの顔が近づきすぎて、乱馬は思わず固まってしまう。

「放課後デート決定ねっ!」
「…えっ!!ちょっ…!!お、おいっ!!」

乱馬に断るスキを見せず、デートの約束を取り付けたシャンプー。
そのまま自転車に乗って走り去る。
残された乱馬は、嵐が過ぎ去ったような状態で、一人呆然と座り込んでいた。


こういう強引な誘いのほうが、乱馬は了解してくれるねっ。


了解したわけではないのだろうが、鼻歌を歌いながら機嫌よくシャンプーは猫飯店に戻っていった。



そして放課後…。

「乱馬。帰りどうする?いつもの商店街にする?」
「んあ?なんか用事でもあったっけ?」

帰り支度をしていた乱馬に、カバンを手に帰る準備万端のあかねが声をかける。
この二人、帰る家が同じ為、気がつくと登下校はいつも一緒である。
気づいていないのはきっと、本人たちだけであろう…。

「覚えてないのー?今朝、かすみおねえちゃんに買い物頼まれたじゃない」
「あー…そういや、そんなこと言ってたっけ」

今朝、天道家での朝食時の話題を思い出す乱馬。
天道家の長女でありスーパー主婦であるかすみが、ご飯をよそいながら乱馬とあかねに買い物を頼んでいたのである。
あかね一人だと大変だから、乱馬くんもお願いね、と言っていたような気が…。

「でしょ?リスト見てみると、結構いろんなもの買わなきゃダメみたいだから、駅前の商店街に行ってみようよ」
「おー。あかねにまかせるぜ」

そういいながら、乱馬がカバンを背中に背負おうとした瞬間…。

「ニーハオ乱馬っ。デートするよろしっ!!」

お気に入りのデート服に着替えたシャンプーが、乱馬を自転車で轢きつつ登場する。

「今朝、約束したねっ。乱馬、私とデートする」
「うげっ…」

自転車に轢かれながら、思わずうめき声を上げる乱馬。
その隣にいたあかねは、シャンプーのセリフに、おもわず自転車の下敷きとなっている乱馬の首根っこを捕まえて思いっきりにらむ。

「ちょっとぉ?どーゆーことよっ。乱馬」
「いやっ…これはちがうくて…っ」
「何も違わないね。乱馬、私とデートの約束した。あかねとの買い物キャンセルね」
「なんですってぇぇっ?!」

シャンプーのセリフに怒り心頭なあかね。
乱馬の弁解の言葉など、まるっきり耳に入らない。

「こんの…いいかげん男―っっっ!!!」


どんがらがっしゃーんっっ。


派手な音と共に、1‐Fの教室から窓ガラスを突き破ってお下げの男の子が空に向かって飛んでいく。

ちがうんだぁぁぁっ!!という雄たけびを残しながら。

「相変わらず、乱暴な女ね」

スクリューを聞かせたアッパーで乱馬を吹っ飛ばしたあかねをみて、シャンプーがボソッと一言つぶやく。

「ふんっ。デートでもなんでも好きにすれば?」
「言われなくても、そうするねっ」

あかねにそう言い捨てて、シャンプーは乱馬が飛ばされた方角へ向かって自転車をこいで去っていく。


「…ほんとに、乱馬なんかだいっきらいっ!」


残されたあかねはそうつぶやいて、一人カバンを手に教室を出て行った。




「乱馬っ!こんなところにいたかっ」
「おわっ…。シャンプー!!」

学校から少しはなれた公園の土管に頭から追突した乱馬。
その乱馬を見つけたシャンプーは、自転車から飛び降りると共に、お約束の抱きつき。

「乱馬、邪魔者いなくなった。これで私とデートできるな」
「だからっ!おれはデートするなんて言ってねーだろっ!!」

シャンプーに抱きつかれてぎくしゃくしながら、なんとかこの言葉を口にする乱馬。
しかし、そのセリフはシャンプーの逆鱗に触れる。

「…あかねとは買い物に行くくせに、私とのデートは嫌だというか?」
「ちっ…ちがっ…」
「わかたある。乱馬がその気なら、こっちにも手があるね」

そういうと、シャンプーは乱馬からはなれて、おもむろにポシェットから小さな水筒を出す。

「…シャ…シャンプー???」
「私以外の女とデートすると…こうなるねっ」

そういうと同時に、その水筒の中の水を頭からかぶる。
と、同時に現れるのは…ピンクの猫。

「うぎゃぁぁぁぁっっつ!!!ねご〜っっっっ!!!」
「にーっっ!!」

猫になったシャンプーは、乱馬の顔にぺったりと張り付く。
恐怖のあまり、乱馬は猫シャンプーを顔に貼り付けたまま、猛ダッシュで走り出した。




「えっと…買い忘れはないかなっと…」

一方、駅前の商店街では、両手に荷物を山のようにかかえたあかねが、かすみから預かった買い物リストの最終チェックに入っていた。

「あー…やっぱり一人だとちょっと大変だったかな。でも、これで全部買ったし…」

あれよし、これよし…。と一つずつチェックを入れて、リストの確認を終えたあかね。
…と、商店街の入り口から、非常に情けない男の叫び声が。

聞き覚えのあるその声は…。


「ねごぉぉぉっっっ!!!」


猫を顔に貼り付けて猛スピードで商店街を走ってきたのは、先ほどあかねが教室からスクリューアッパーでぶっ飛ばした許婚である。
顔にピンクの猫をくっつけてあかねの横をすり抜け、その先にある突き当たりの壁に激しく激突する。

「…大丈夫?乱馬??」
「ねごが…ねごがぁぁぁっ」

壁にぶつかって倒れた乱馬の上に、相変わらず猫に変身したシャンプーがくっついている。
乱馬は…といえば、失神一歩手前、といったところか。

「ったくもー。だらしないわねぇ」

そういいながら、乱馬の顔からシャンプーを引き離すあかね。
なんだかんだといいながら、いざというときに乱馬のめんどうを見るのはいつもあかねの役割になっている。

「乱馬?も〜…しっかりしなさいよ」
「ね〜ごぉ〜…。…えっ???」

乱馬が正気に戻ると、目の前にはふくれっつらをした許婚の顔。

…なんでここにあかねがいるんだ?

「あれ??あかね???」
「なに?覚えてないの??乱馬、シャンプー顔に貼り付けてココまで走ってきたんじゃない」
「あ?あー…そうだっけ」

ふぅ。と一息つきながら起き上がる。
服に付いた埃をはたきながらあかねを見ると…。

「なんだ?その大荷物」

乱馬からシャンプーを引き離すために、一旦道の端に置かれたあかねの荷物は、普通の女の子一人では到底運べない量である。
袋の端から「お米20キロ」だの「日本酒2リットル」だのが見える。

「何って…かすみおねえちゃんに頼まれた買い物よ?これで全部だけど…」
「おめー…これ全部一人で持って帰るつもりだったのかよ?」

袋だけでも5個はある。
しかも、重さを見ても…30キロぐらいはありそうだ。
まぁ、天道家は総勢居候合わせて総勢7人が暮らしているので、買出しの量も通常の家庭の倍近くにはなるのだろうけど…。

「そうよ?だって、乱馬はシャンプーとデートするんでしょ?」

いつものようにあかねが憎まれ口をたたく。
さすがのあかねも、一人で持って帰るのは大変だなぁ…とは思ってはいたのだが。

「…わるかったな」
「えっ?!」

いつもなら、あかねの憎まれ口に対して、なんだかんだとけんか腰になる乱馬だが、今日はめずらしく素直に謝る。

「ど…どーしたのよ?乱馬。なんか素直すぎて…気持ち悪いわよ?」
「なんでい。おれはいつも素直じゃねーか」
そういいながら、乱馬はどっさりと置かれたあかねの荷物を持つ。

「これで全部なんだろ?さっさと帰ろーぜ」

一番軽そうな袋一つだけ置いて、残り4個を手にあかねのほうを振り向く。

「え…?シャンプーはもういいの?」
「ああ。今日のデートはシャンプーの勘違いだからなっ」

…その勘違いをいつも本物にされてしまうんじゃないの??

乱馬のそのセリフに、思わず心の中で突っ込みを入れつつ、あかねは残された袋を一つ手に持つ。
やっぱり、その袋は一番軽かった。

「…ありがと」
「ん?なんか言ったか??」
「…な、なんでもないよーだっ!夜ご飯何かなぁ??」
「おー。腹減ったなぁ〜…」

乱馬と二人並んで歩くあかねを、ひっそりと見つめる猫。
…言わずと知れた、シャンプーである。


――今日は私の負けね。でも、私、乱馬諦めないね。私以外の女、乱馬の隣にいるの、似合わない。


猫の姿のまま、シャンプーは一人心に誓う。


――中国女傑族の掟、絶対ね。いつか絶対、乱馬は私の婿になるね。


夕焼けがキレイな商店街の一角で、ピンクの猫が「にゃんっ」と一声鳴いていた。








シャンプー視点は難しかったです…。
なんだかもー…。全然お題に沿ってない気が…(涙)
しかも無駄に長い…。

ちなみに、朝の登校シーンはOVAの反転宝珠の話から持ってきましたv
あのシーンの作画が本当にキレイで好きなんですよね〜♪♪



(05/07/31 作成 ブログにて発表済み分  05/09/14 加筆修正)





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