1.プロポーズ




「さゆり、キレイだったね〜っ」

右手に引き出物の袋、左手に真っ白なブーケを持ったあかねは、隣りを歩く許婚に向かってさっき参加した結婚式の感想を話していた。
そんなあかねの言葉に、眠そうな顔の許婚は昔から変わらないお下げを揺らしながら、一言「そっか?」とつぶやく。

「やっぱり結婚式はウエディングドレスがいいな〜っ。真っ白なドレスを着て、ヴァージンロード!女の子の夢よねっ」
「おめー、着物がいいんじゃなかったっけ?」
「着物じゃなくって白無垢でしょ??うーん…白無垢も着たいけど、やっぱりドレスかなっ。さゆりのドレスがすっごくかわいかったもんっ」
「…まぁな」

高校を卒業してから5度目の夏が来て。
みんなそれぞれの道を歩いていると思っていた矢先、天道家に一通の招待状が届いた。
送り主は…。

「でもよ。まさかだいすけがこんなに早く親父になるとはなー」
「そうよね〜っ。あたしもまさか2人が結婚するとは思わなかったわ」

乱馬の高校時代の友人だいすけと、あかねの高校時代の友人さゆりは、世間で言う「できちゃった婚」で今日、結婚式を挙げたのだ。
高校のクラスメイト同士での結婚式だけあって、集まった招待客のほとんどが風林館高校元1年F組のメンバーばっかりだったのだが…。

「でも、みんなも失礼よねっ!!あたしがまだ「天道」でお祝儀出したらびっくりするんだもん」
「ほー…」

高校卒業後、乱馬は風林館高校の姉妹大学である雪林館大学に、あかねは地元の国立大学に進学した。
お互い「親同士が勝手に決めた許婚」という関係を維持したまま、結局大学生活4年間をあわただしいままに過ごした。
その後乱馬は天道道場で門下生の稽古を見る傍ら出稽古をしてさらに強さに磨きをかけ、あかねは地元企業に就職することになり…。

そして…今に至る。

結局、2人が最初に出逢った日から数えて7度目の秋が来たというのに、二人の関係は一向に変化していなかったのだ。

「で、あかね。その花はどうしたんだよ?」

結婚式だというのに、相変わらずのチャイナ服姿の乱馬は、あかねの左手にある大きなブーケを見て、何気なくこう切り出した。

「ん?ああこれ?さゆりからもらったんだーっ。キレイでしょ?」
「コレって、あいつが結婚式で持ってた花束じゃねぇのか?」
「そうよ?あ、乱馬ってば知らないのー?花嫁のブーケをもらう意味」
「それぐらい知ってらぁ」

そういって口を尖らせてそっぽを向く乱馬を見上げながら、あかねはちょっとだけ表情を曇らせる。
さすがに7年も許婚を続けている2人なのだから、お互い相手の気持ちぐらいはわかってはいるのだが…。
相変わらずの意地っ張りが表に立って、結局その気持ちを言葉に出したことはなかったのだ。
高校生じゃないのだから、もはや些細なことで乱馬にやきもちを焼くこともなくなったあかねだが…たまに、こういうときにふっと寂しさが横切る。


…乱馬ってば、ほんとにあたしと結婚する気、あるのかしら?


幾度となく聞こうとして、その都度聞けなかった言葉を、あかねは再度心の中でつぶやく。

「でもよー…。別におめーがそれもらっても関係なかったんじゃねぇの?」
「え?…どういうことよ?」
「だってよ、もらってももらわなくっても、次はあかねじゃねぇか」
「…え?」

まるであかねの心を読んでいたかのように、乱馬は2人の関係が進むであろう言葉をさらっと口に出す。

「ちょっ…ちょっと乱馬?!それって…っ」
「んー?」

あかねの引き出物の袋に手を持っていきつつ、乱馬は何食わぬ顔してあかねを見る。
…いや、違う。
何気に耳は真っ赤だ。

「それって…もしかして…プロ」
「だーかーらーっ!!んなもんに頼んなくたって、おれがもらってやるっつってんだよ」

あかねの言葉をさえぎるように、乱暴にあかねの袋を奪い取って先を歩く。

「乱馬…」
「おめーみてぇな不器用な女、おれ以外誰がもらってくれるってんだ」

ずんずんと歩いていく乱馬の後姿を思わず呆然と見送っていたあかねは、その言葉にふっと我に返る。

「…ちょっと乱馬?その言い方ってどうなのよっ?!」
「どうもこうも、まんまじゃねぇか?世界一不器用なあかねサン」

そういうと乱馬は、追いかけてくるあかねを振り返ってにかっと笑う。
その表情は、7年前とまったく変わらない。

「〜っっっ!!だいたい何よっ!そんな言い方しなくったっていいじゃないっ!!」
「なんでぇ。おれはホントのことを言ってるだけだぜ?」
「せっかく一生に一度のことなんだから、もっとロマンチックな言い方できないわけ??」
「おーっ。できねぇなっ!これがおれなんだから仕方ねぇだろーがっ」
「あんたって、ほんとにがさつよねっ!」
「おめーにだけは言われたくねぇよっ」
「ふんっ!がさつで不器用で悪かったわねっ!!」
「あとずん胴とかわいくねぇが抜けてるぞ?」
「なによっ!乱馬のばかっ!!」

そういっていつものように乱馬を殴り飛ばそうとしたあかねの右手は、ひょいっという感じで乱馬に掴まれる。
その右手を引っ張って、乱馬はあかねを自分の胸元に引き寄せる。

「ま、こういうほうがおれららしいだろ?」
「〜っっっ!!!くやしーっ!!」
「へへっ!いつも殴れると思ったら大間違いだぜっ」
「んもうっっっ!!!乱馬の〜っっっ」

殴るつもりが手首を掴まれて、いとも簡単に懐に引き寄せられたあかねは、悔しいのと恥ずかしいのとで体中の血液が顔に集中するぐらいドキドキだ。
本気出した乱馬に叶わないのは百も承知だが、こんなときにこんな不意打ちはあんまりだ。

「…ばかっ」

そうつぶやいたあかねは、次の瞬間乱馬の腕の中で息が止まりそうになっていた…。



そしてー
ここから、2人の結婚への道のりは始まったのである。








思いのほか、甘くなりました。ちょっと自分でビックリ(笑)
乱あのプロポーズってどんなんなんだろう???って考えて考えて…。
で、こうなりましたvv
真冬流乱あ結婚への道のり、スタートです。
どうぞ、この先もお付き合いいただけたら幸いですv

(05/10/08  作成)





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