口から白い息がこぼれる。 今朝はこの冬一番の冷え込みだったらしい。 「うーっっ! なんかめちゃくちゃ寒くねぇか?」 三学期が始まって一週間。 冬休み明けの最初の日曜日は、朝から許婚と一緒に出かけることになった。 一年生の夏から家にやって来たおさげの居候は、気づけばいつもあたしの隣にいる。 「ほんっとねー。見てみて乱馬。息が真っ白!」 もうすぐ高校を卒業するというのに、あたしたちは相変わらず『親が決めた許婚』という関係のままだ。 ま、この乱馬が口でそれ以上の関係になるようなことを言ってくれるとは思わないけどね。 諦めの混じった顔で、あたしはすぐ隣に立って空を見上げている許婚の顔をのぞき見る。 初めて会ったときはまだやんちゃな子供みたいだったのに、最近一気に大人っぽい表情をするようになった。 特に、真剣になったときの瞳は、「男の子」のものから「男の人」のものへと変わったような気がする。 先月あたしがクリスマスプレゼントにあげたマフラーで口を隠しながら、白い息を小さく吐き出す。 おととし、初めてのあげた黄色のマフラーより、格段に上手く仕上がった緑色のマフラー。 あたしがあげたマフラーなんて、昔は絶対につけてくれなかったのにな。 「ふふっ」 「あんだよ」 初めて上手く仕上げることができたマフラーが乱馬の首元を覆っているのを見て、あたしは思わず笑みを漏らす。 「なんでもないよーだっ」 「気味わりぃなぁ」 「それより早く行こうよ」 そう言って、あたしは乱馬の手を引っ張って天道道場の看板を後にする。 『親同士が勝手に決めた許婚』 初めて出逢ったあの日から、何度口にしたかわからないこのフレーズ。 最初の頃は、許婚なんて関係、迷惑以外何者でもなかったんだけど――。 あたしの冷えた手のひらをしっかりと握り締めてくれる大きな暖かい手を感じながら、あたしは幸せな気持ちになった。 乱馬がいてくれて良かった。 寒い冬の空の下、あたしの歩幅に合わせて歩いてくれる許婚を横目で見ながら、あたしはあたたかい気持ちでそのことを思う。 乱馬と出逢えてよかった。 『親同士が勝手に決めた許婚』の相手が乱馬でよかった。 「乱馬の手のひら、あったかいね」 「へ?! お、おおぅ」 にっこり笑って乱馬の顔を見上げたあたしに向かって、乱馬は鼻の頭を赤くしながら顔を背けた。 照れ方は昔と変わらないけれど。 でも、つないだ手を離さなくなったのは『大人』になった証拠なのかな。 ふわりと降り始めた粉雪を見つめながら、あたしは乱馬の大きな手のひらをしっかりと握り締めた。 「蜜色アゲハ」の蝶子さんから頂いた寒中見舞いイラストの乱馬くんがあんまりにかっこよくって、人生初となる、他人様のイラストから妄想させていただいた作品です。 大人っぽい乱馬くんを描きたいなー…と思っていたのですが、出来上がってみると、なにやらあかねちゃんの独り言みたいになりました(オイ!) ちなみに無許可でしかもこの駄文を送りつけてみたり(馬鹿) 蝶子さま、申し訳ございません! 不都合ございましたらご一報くださいませ。即撤去いたしますので(汗 ちなみに、蝶子さんから頂いた素敵イラストはコチラから (06/01/31) 戻る |