8.スイカ割り




青い空と白い雲。
白い砂浜に照りつける日差し。
高くも低くもない波が絶え間なく続く海辺に、天道家御一行様はいた。

「やっぱり夏は海よねー」

海に到着後、さっそくパラソルを立てている居候の親子を横目に、天道家次女のなびきは一人、思いっきり伸びをする。

「そうねー。気持ちいいわねー」

そのなびきの隣りで、長女かすみもにっこりと笑顔で手に持っていた荷物を砂浜に下ろす。

「お父さんも粋なことしてくれるわよね。うち、収入ないくせに」
「なびき。あんまりそういうことお父さんに言っちゃだめよ」

お父さん、気にしてるんだから。
しっかり者のかすみは、なびきのその言葉にやんわりと注意を入れる。

「はーい。…あら?あれって…九能ちゃんじゃない???」

肩をすくめてかすみの注意をさらっと流したなびきは、遥か前方から剣道着姿の一人の男が走ってくるのを目にする。
こんな海辺に剣道着姿でいる男なんて、なびきの知る限りただ一人しかいない。
同じクラスの変態剣道部員、自称風林館高校の青い雷、九能帯刀17歳だ。

「なーんでこんなところにいるのかしら?」
「ほんとねぇ。…あら。あかねだわ」

なびきとかすみが立っているすこし前方に、天道家三女のあかねが白い麦藁帽子を手で押さえつつやってくる。
白いワンピースとおそろいのその帽子は、この間友達とショッピングに行ったときに買ったらしい。

「あかねーっ!九能ちゃんが来てるわよーっ」

なびきの忠告が聞こえたのか、あかねは九能が走ってくるほうに目をやると、右手でぐっと握りこぶしを作る。

「おおっ!天道あかねっ!そんなに僕に会いたかったのか!!」
「ちがいますっ!!!」

両手を広げてあかねの前に現れた九能を、作った右手の握りこぶしで思いっきりぶっ飛ばす。
毎度の事ながら、見事なクリーンヒットである。

「まったく。なんで九能先輩がこんなところにいるのよっ」
「さぁねー??ま、いいんじゃない?」

息を切らしつつなびきたちの場所にやって来たあかねは、一人ぶつぶつと文句を言う。
そんなあかねの言葉に、なびきはにっこり笑顔だ。

「…おねえちゃんってば、また九能先輩を利用するつもりでしょ?」
「あら。失礼ね。そんなことしないわよ?」

そうねー。ちょっと九能ちゃんとスイカ割りでもしよっかなーって思っただけ。

なびきは一人そうつぶやくと、あかねに飛ばされて砂浜に埋まっている九能のほうへ歩いていく。

「…スイカ割り???」
「あらあら。そういえば九能くんって、とってもスイカ割りがお上手だったのよねー」

かすみのその言葉に、あかねは以前スイカ島というスイカしかない無人島での出来事を思い出す。

「そ、そういえばそうだわ。九能先輩って、ことスイカに関しては無敵なのよ」
「スイカ割りに関してだけな」

あのときのことを思い出して、思わずぞぞっとしていたあかねの隣りから、男の子の声が聞こえる。

「乱馬」
「なんでー?九能のやつが来てんのか?」

さっきまで父親と2人でパラソルを立てていたあかねの許婚で天道家居候の乱馬である。

「そうなのよねー。乱馬なんか約束でもしたの?」
「するわけねーだろうがっ!!わっっ!!つめてぇっっ!!」

あかねに向かって断固反発していた乱馬は、どこかから飛んできたバケツの水で、一瞬にして女に変わる。

「なびきっ!!てめぇ何しやがるんだよっ!!」
「だってぇ。九能ちゃんがおさげの女に会いたいっていうから…」
「…てっめぇー」
「おおっっ!!おさげの女ではないかっ!!会いたかったぞおおおおっっっ!!」

なびきに食って掛かろうとした乱馬の目の前に、両手を広げた九能が立ちはだかる。
もちろん、毎度のことだがその九能の顔に思いっきり蹴りを入れる乱馬。
こちらも相変わらずのクリーンヒットである。

「オレは全然会いたくねーよ」
「はっはっはっ。相変わらず照れ屋なヤツだなぁ」
「あのなぁっ!!!」
「それじゃあ、九能ちゃん。2人に見せてあげるんでしょ???」

そういうと、なびきは山のようにスイカが入った荷台を持ってくる。

「な…なびきおねえちゃん??」
「ま…まさかてめぇ」
「うふふ。そのまさかよ。九能ちゃーんっっ行くわよーっっ!」

乱馬とあかねの心配をよそに、なびきはそういうと荷台のスイカを次々と九能に投げつける。

「わははははっ!見よ!おさげの女!天道あかね!この見事なスイカさばきっっ!!」

案の定、投げつけられたスイカを、見事な剣さばきで次々と切っていく九能。
切られたスイカがパラパラと砂浜に落ちていく。

「…相変わらずすごい技ねー」
「ま、まぁな。…スイカにしかきかねぇ魔剣だけどよ。でもよー。なんでわざわざなびきのヤツ、九能にこんなことさせてんだ??」
「そうよねー。わざわざ乱馬を女にしてまで…」

そういいながら2人がなびきのほうを見ると…。

「はいはいはい。お代はこちらに入れてねー。ほらほら、そこ押しちゃだめでしょー?」

九能見たさに集まった観客からお金を取っていた…。

「…お、おい。商売しとるぞ?なびきのヤツ」
「な…なびきお姉ちゃん…」
「九能に教えてやったほうがいいんじゃねーのか?」
「利用されてるって???でも…」

九能によって見事な切り口に切られたスイカたちが、続々と出来上がっていく。
その一つを拾ってあかねは一言。


「…まぁ、いいんじゃない?九能先輩も喜んでやってることだし」



その後、割られた沢山のスイカは天道家御一行様でおいしくいただいたのだった。








…これっぽっちも甘くない。
っていうか、これっぽっちも乱あじゃない(笑)
スイカ割り→九能先輩の伝説の魔剣。ということで書いてみたけど…。
まぁ、なびき姐さんも女らんまちゃんも好きなんで、コレはコレで良しとしよっかな(笑)

ちなみにコレは、時間的には『2.麦藁帽子』の続きです。
って、どっちから読んでも全然モンダイないんですけど…(笑)

(05/09/07 ブログ発表分   05/09/17 加筆修正)



追加、注意書き…。

すみませんっっ。ごめんなさいっ!
何気に熱闘編138話のアニメオリジナル「決定!ミス・ビーチサイド」の最初の場面とかぶっています!!
今朝、アニメを見てものすごいビックリしちゃいました(笑)
コレ書いてた時は、そんなアニメオリジナルの存在なんてすっかり忘れていたのに…。
人の記憶って怖い…。

(05/09/20 注釈追加)



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