@ 手のひらの温度差 ――乱馬Side
「ううううーっっ。さむいぃぃーっ」
かすみさんに頼まれたクリスマスケーキを買いに行く道で、隣りを歩くあかねはそう言いながら自分の両手を口元に持っていく。
はぁ〜とか言いながら自分の息、吹きかけてやがんの。
その様子があまりに子供っぽかったので、おれは思わず笑いながらその手を掴んでやる。
「おめー、ほんと寒がりだよなー」
「なによぉっ。乱馬がおかしいんでしょー? なんでそんなに手があったかいわけ?」
俺が掴んだ手を握り返して、頬を膨らまして俺を見上げる。
うわぁっ。なんつー冷てぇ手、してんだ。こいつ。
ってぇか、その上目遣いはやめれぇっ。反則だろーがっ!
「へへんっ。そりゃ、修行の成果だぜ」
「修行で手先があったかくなるわけないじゃない」
そう言いながらも、あかねは俺の手を振り払おうとはしない。
あかねの冷たい手の温度と、俺の暖かい手の温度が徐々に交じり合う。
あー…やべぇ。あかねの手のひら、めちゃめちゃやわらけー。
あかねに掴まれた手のひらからちょっと問題な妄想が走り出して、おれは思わずわけのわからんことを口走りだす。
「……ま、ほらあれだよ。日ごろの鍛錬っちゅーか」
「鍛錬? 何言ってんのよ。ほら、早く行こう」
うわー。なんちゅーか、変に声、裏返ったぞ。
それもこれも、おめーがおれの手を握り返すからじゃねぇかっ!
そんなおれの心のうちなんてきっと全然わかってねぇんだろうなー。
あかねのヤツ、自然に俺の手を引っ張って商店街のほうへ向かって歩き始める。
あのー…。
手、繋いだままなんですけどー…。
「早く行かなきゃ、ケーキ売り切れちゃうよ」
白いコートに身を包んで俺の左手を掴んだあかねは、俺を見上げて商店街のほうへと促す。
その姿があんまりにかわいかったもんだから、俺は口の中でなんとなく返事を返す。
ま。まぁな。
さみぃもんな。
せっかくだし、繋いでいたほうがあったけぇよな。
そんなことを言い訳がましく考えながら、おれはあかねの手を引いてしっかりと握り返した。
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A 手のひらの温度差 ――あかねSide
「ううううーっっ。さむいぃぃーっ」
おねえちゃんに頼まれて商店街へとクリスマスケーキを買いにきたあたしは、うっかり手袋を家に忘れた。
すっかり冷え切っちゃった手先をあっためようと、自分の息を吹きかけたところで、隣で歩く乱馬があたしの手を掴む。
「おめー、ほんと寒がりだよなー」
「なによぉっ。乱馬がおかしいんでしょー? なんでそんなに手があったかいわけ?」
掴まれた手のひらがすっごくあったかくて、その暖かさに思わずあたしは驚く。
乱馬の手のひら、すっごくあったかい。
なんでこんなにあったかいんだろう?
乱馬の手のひらがあんまりにあったかかったから、思わず湯たんぽ代わりに握り返して、あたしはちょっとぶーたれて乱馬を見上げる。
手先が冷たくならないなんて、ずるいなぁ。
っと、乱馬ってば、なんで変な顔するんだろう?
「へへんっ。そりゃ、修行の成果だぜ」
「修行で手先があったかくなるわけないじゃない」
ばかね。修行したぐらいで手先があったかくなるわけないのに。
やっぱり冷え性ってそんな簡単に治らないんだなぁ。
乱馬の手で自分の手をあたためながらそんなことを考えていると、乱馬のやつ、変なことを言い出す。
「……ま、ほらあれだよ。日ごろの鍛錬っちゅーか」
「鍛錬? 何言ってんのよ。ほら、早く行こう」
何言ってんだろ?
ちょっとしどろもどろになっちゃってるし。
変な乱馬―。
そんなことを思いつつ乱馬の手で自分の手先をあたためたあたし。
だいぶん手先があったかくなってきたから、そのまま乱馬の手を引っ張る。
早く買いに行かなきゃ、ケーキ売り切れちゃうかもしれない。
「早く行かなきゃ、ケーキ売り切れちゃうよ」
乱馬を見上げてそういうと、おう、だの、ああ、だの歯切れの悪い返事が返ってくる。
全く。何をそんなにうだうだしてるんだか。
だけど――歯切れの悪い言葉とは裏腹に、乱馬はあたしの手のひらを自分の手でしっかりと握りしてめくれた。
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