5.手を繋ごう




「あかねはどっち?」

お昼休み、委員会の集まりから戻ってきたあかねが教室に入ると、クラスメイトのゆかが突然あかねに話しかける。
見ると、いつもあかねと一緒にお弁当を食べるゆかとさゆりが、食後のお菓子タイムに突入していた。

「おかえりあかね。委員会、お疲れ様〜」

ポッキーを口にくわえて、さゆりがあかねの為に席を一つ用意する。

「あ、ありがとう。…で、ゆか。何?さっきの質問」

さゆりに進められるままポッキーを一本とって、一人真剣に雑誌をめくっているゆかのほうを見る。
…手に持ってる雑誌の表紙には、大きな文字で「心理テスト特集」と書いてある。

「ああ。心理テストよ。なんか楽しそうだから持ってきたの」
「そうそう。結構当たるもんなのよねー。これが」

ポッキーを食べながら、「ふぅん」とあかねはつぶやく。
確かに、あかねも結構こういうのは好きなのだ。

「んで?どういう質問??」
「えーっとね、『好きな人と道を歩くとき、あなたは手を繋ぎたいですか?それとも腕を組みたいですか?』だって。あかねは乱馬くんと普段どうしてるの?」

ゆかが雑誌を読みながら何気なくあかねに聞く。
その言葉に、さゆりも横から身を乗り出してあかねに詰め寄る。

「あ、私もそれ気になるな〜っ。あかねって、乱馬くんといつも登下校のとき手とか繋いでないの?」
「なっ…。つっ…繋ぐわけないじゃないっ!!」

さゆりの言葉に、思わず顔を赤くしながら強く反論するあかね。
確かに、いつも乱馬はフェンスの上やら塀の上やらを歩いているので、あかねと並んで歩くことすら少ないのだ。

「やっぱそーなんだ。そんなことだろうとはおもってたけどさ」
「ほんと、あかねと乱馬くんって形式だけが突っ走っちゃってるわよね」

形式だけとは、「親が決めた許婚」のことである。

「そっ…そりゃそうよっ!だって、親が勝手に決めた…」
「許婚だもん。でしょ?でも、その割にはお互い意識しまくりだけどねー」
「そうよねー。しかもすっかり学校中の公認の仲じゃない」

乱馬くんがきてから、あかねに言い寄る男子も極端に減ったしねー。
さゆりがあきれた声でこう付け加える。

たしかに、乱馬が転校してくる前まで、毎朝の恒例行事だった校門前でのあかねへの求愛(格闘??)申し込みやら、下駄箱に押し込まれたラブレターやらが、乱馬が来ると同時にピタリと止まった。
今、この風林館高校であかねに交際を申し込む男は…一人だけであろう。

「そうよねー。今でもがんばってるのって、九能先輩ぐらいでしょ?」
「あの人も懲りないわよねー」
「…あ、あの?」

さゆりとゆかがふたりで顔を合わして「ねー」と言い合う。
その会話に思わず言葉を詰まらすあかね。
まぁ…確かに乱馬との仲は九能を除く全ての生徒に公認となってしまっている感じはあるのだが…。

でも、本人たちはまだちゃんと手もつないだことがないのだ。

あかねが危険なときは肩を抱くわ腰を持つわ、挙句の果てにお姫様抱っこまでする乱馬だが。
…事情が事情だけに、そういうときのスキンシップはお互いに無意識の状態なのである。

「で?話がずれちゃったわ」
「そうそう。あかねはどっちがいいの?」

一通り乱馬とあかねの話で盛り上がった2人が、一息つけてからあかねのほうを向く。

「え?どっちって??」
「だーかーら。腕組みたいの?手を繋ぎたいの?」
「なっ…!だから!別に私は乱馬とはなにもっ…!!」

慌てて否定をするあかねに、2人は思わず呆れ顔で突っ込む。

「あかねー?別に『乱馬くんと』っていう言葉は頭につけてないわよ?」
「そうよ。『好きな人と』よ?」
「あ…。そ、そうよねっ。もし、好きな人ができたらってことよねっ!」

えへ。と照れ隠しのように笑うあかねに、2人は心から脱力する。
そんな2人の様子には気づかずに、あかねはしばらく考える。

「うーんと…そうだなぁ。やっぱり手を繋ぐほうがいいかなぁ」
「へぇ。やっぱりそうなんだ」

ゆかが雑誌を見ながら納得の顔をする。

「え?どういうこと?」
「えっとねー。『手を繋ぎたいあなたは、好きな人と常に対等でいたいと考えがち。同じ目線のガキ大将タイプと友達感覚の恋愛を望むタイプ』だってっ」
「ふぅん」
「え?じゃあ、腕を組みたい派は?」

あかねがうなずくとなりで、さゆりがゆかにもう一方の答えをせがむ。

「うーんと…『腕を組みたいあなたは、好きな人に頼りたいと考えがち。大人っぽい落ち着きを持つタイプにリードしてもらう恋愛を望むタイプ』…らしいわよ?へぇ。そういうもんなのかな」
「ふーん…。でもあかねは当たってるわね」

ゆかの答えを聞いて、さゆりはすかさずあかねに一言。

「えー?そぉ?」
「だって、乱馬くんって、「同じ目線のガキ大将タイプ」じゃない」
「…確かに。…って!だから違うってばっ!!」

さゆりのからかい口調を否定しつつ、あかねはふと思う。

…でも、シャンプーや右京は?
隙あらば乱馬と腕を組もうとしてるけど…。
大人っぽい落ち着きを持つタイプ???
あいつがぁ〜?
まさかぁ。



その日の放課後、いつものように乱馬と一緒に校門を出たところで、これまたいつものようにシャンプーが自転車で乱馬をデートに誘いに来る。

「ニーハオ乱馬っ。今からデートするよろし」
「だぁぁぁっ!!シャンプーっ!?」
「今日、とてもいい天気っ。絶好のデート日和ね」
「デート日和ってなんだよっ!!ってか、デートするなんていってねぇだろーがっ!!」

自転車から降りて、軽やかに乱馬に飛びつくシャンプー。
乱馬の首に腕を回し、ゴロゴロとのどまで鳴らす始末だ。

「…先に帰るわよ。乱馬」

シャンプーに抱きつかれたまま、はっきりと断れない乱馬をあきれた顔で見ながら、あかねは冷たく言い放つ。

「お、おいっ!!あかねっ!」

乱馬の叫びを無視して、あかねは一人先に家路につく。
いつまでもシャンプーといちゃいちゃしている乱馬を見る義理はあかねにはないのだ。



「まったく…相変わらずはっきりしないんだからっ!」

首にまわされたシャンプーの腕すら自分で振りほどけないなんて…。
ほんっとにサイテーっ!!

先ほどの乱馬の様子を思い出し、再度怒りに燃えるあかね。

あーっっ!!もうっ!!
さっさとうちに帰って、道場で一汗流そうっと。

そんなことを考えながら、あかねはふと立ち止まって、いつも乱馬が歩いている隣りのフェンスを見る。
そんな、なんでもないフェンスすら憎々しい。

「破―っっっ!!」

思わず、そのフェンスに向かって鋭い突きを一発入れる。
…と。

「…え?きゃぁっ!!!」

どうやらフェンスが弱ってたらしく、あかねはそのままフェンスごと川にはまってしまう。

「やだぁ。乱馬じゃあるまいし…」

一人ドブ川に落ちてしまったあかね。
スカートを水でぬらしながら、思わずつぶやく。

「何やってんだろ。私ってば…」
「なーにやってんだよ?あかねっ」

あかねのつぶやきに返すように、あかねの頭上からいつもの声が聞こえる。
ちょっとからかい口調で、お調子者のような声。

「乱馬!」
「おめーが川に落ちるだなんて、珍しいじゃねーか。大丈夫かよ?」

道にしゃがみこんであかねを見下ろしているのは、さっき学校前で置き去りにした許婚。
あきれたような、でも少しだけ優しい笑みを浮かべている。

「何よっ!うるわいわねっ!…シャンプーは?」
「ああー?んなもんカンケイねーよっ。ほら」

そう言って、乱馬はあかねに右手を差し出す。

「え…?」
「引き上げてやっから。どーしたんだよ?」

当然のように差し出された右手。
ごつごつした、男の子の手だ。

「あ…ありがと」

あかねはその右手に自分の右手を合わせる。
乱馬に比べたら小さくて白くて、女の子の手。


そういえば、乱馬の手なんて、ちゃんと握ったことなかったなぁ。


初めて感じるその手のぬくもりに、思わずあかねは昼間の会話を思い出す。


『好きな人とは手を繋ぎたい?それとも腕を組みたい?』


…うん。やっぱりあたし、手を繋ぐほうがいいかな。
なんか、あったかいもん。


そんなことを考えてるうちに、あかねは乱馬に引き上げられて道に座り込む。

「あーあ。びしょぬれじゃねーか。さっさと帰って着替えねーとな」
「あ…うん」

引き上げたら途端に手を離してしまった乱馬。


…もうちょっと繋いでいたかったのにな。


「んあ?なーに呆けてんだ?大丈夫かよ、あかね?」

そんなあかねの気持ちにはまるで気づかない乱馬は、ひょいっという感じで座り込んだあかねの顔を覗き込む。

「あ、ううん。大丈夫!さ、帰ろっか」

乱馬の顔が突然視界に入ってきたので、我に返ったあかねは慌てて立ち上がる。


やだやだ。あたしってば、今なに考えてたの?!
なしなしっ!!今のなしだってばっ!!


自分の気持ちに精一杯否定をして、あかねは我が家への道を歩き始める。
隣には、いつものようにフェンスの上をひょいひょいっと身軽に歩く許婚の姿。

「おめー、マジで大丈夫かよ?なんか頭でも打ったのか?」

今度は自分の頭を振っているあかねを見下ろし、心配そうに声をかける乱馬。

「なっ…なんでもないわよっ!!」

そんな乱馬の声に、打てば響く勢いで返事を返すあかね。
そんな2人の会話が、夕日が沈むいつもの通学路に響いていた。



2人が手を繋いでこの道を歩く日。
それはまだまだ、先の話。








えーっと…一言ご注意です。
作中に出てくる心理テストは、もちろん!私が勝手に創作したものです!!
くれぐれーも間に受けないでくださいねv(笑)

で。
なんとなくはじめた5個のお題が完了しましたv
ラストはあかねちゃん視点。
時期的には、真之介くんに会う前ぐらいですかね。
うん。たぶんお互いちゃんと意識して手を繋いだことがない時期。
ほんと、このお題難しかったです(笑)
ラストだし、絶対乱あでちょいラブ…を目指してみたんですけど…ねー(涙)
まぁ、相変わらずのラストですね。
もうちょっとどうにかしたいんだけど…ムリでした(涙)



(05/08/02 作成 ブログにて発表済み分  05/09/15 加筆修正)





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