6.海水浴とビーチボール




「おねえちゃん。持ってきた??アレ」
「えー。あかねが持ってくるって言ってたじゃん?」
「大丈夫よ。なびき。ちゃんと用意してきたから」

暑い夏の浜辺。
海の家で一人カキ氷を食っていると、耳に入ってくるのは天道家三姉妹の声だ。
さっき親父と立てたパラソルの下で、あかねたちは荷物の中を確認しながらなにやら話している。

「おお!乱馬よ。こんなとこにいたのか」
「ああー?んだよ。おやじ」

そんなあかねたちの声をぼーっと聞きつつ冷たいカキ氷を口に入れたところで、親父がおれの座っているテーブルの向かい側に腰を下ろす。
なんだぁ?
親父が真面目な顔しておれの前に来るときってのは、たいていなーんかあるときなんだよなぁ。

「お前は入らんのか?海に」
「そのコトバ、そっくりそのまま返してやるぜ。親父」

タンクトップに短パン姿のおれに向かっていけしゃあしゃあと言う親父こそ、浜辺に似つかわしくない胴着姿だ。
ま、どーせ海に入ればおれは女だし、親父はパンダだもんな。
男もんの水着なんて着れねぇよな。お互い。

「いいではないかっ!女の姿で海に入れば。わしなんぞパンダになると暑くてかなわんっ」
「いいじゃねーか。パンダになって水浴びでもしてこいよっ」

くぅーっと泣きまねしつつおれの食いかけのカキ氷を奪おうとする親父の手を避けつつ、おれはカキ氷を手に立ち上がる。

「乱馬よっ!!このかわいそうな父親にカキ氷の一つでもおごったらどうなのだっ!」
「やっぱりそれかよ!ったく、どこの世界に子供にカキ氷をおごらせる親がいるんだよっ!」
「ここにいるっ!!」

そういいながら、親父のやつ、おれに向かってとび蹴りをしてくる。

「だぁぁっ!!うっとおしいっ!!」
「カキ氷おごってくれるまでつきまとってやるぞ!乱馬よ!」
「げ…カンベンしてくれよー」
「何してんのよ?乱馬」

気がつくと親父とカキ氷争奪バトルを繰り広げつつあったおれの耳に入るのは、さっきまでパラソルの下でなにやら探し物をしていたあかねの声だ。

「なんでもねぇよ」
「あらそ。ねぇ!それより乱馬もやらない?コレ」
「ああー?なんでぇ。めんどくせえよ」

親父の攻撃をかわして振り向くと、そこにはビーチボールを手に水着姿のあかねが立っていた。
ピンクの水着はビキニタイプで、胸のところで結んだリボンが揺れる。

…え?こんな水着、持ってたっけ???

「あれ…?おめー…水着買ったのか??」
「そうよーっ。かわいいでしょ?」
「…ま、まぁ。ずん胴なりに似合ってんじゃねーの?」
「あんたねぇ。もーちょっと素直にほめられないわけ??」

素直に…ねぇ。
っていうか、今のでもおれの中では精一杯のほめコトバだぜ?
いや、マジに似合ってるんですけど…。

…こんな水着着て浜辺でビーチバレーなんてしてみろよ。
間違いなく男どもが声かけてくるんじゃねーか。
そういや、さっきからなーんか周りの視線が痛い気がする…。

「…ま、まぁたまにはビーチバレーもいいかもな」
「でしょっ?ねっ。やろやろっ」

…ちげーぞ。
断じて違うんだからな。
水着姿のあかねが周りの男に声かけられるのを阻止するためじゃねーそ。
ほら、ただ…やっぱ海にきたならビーチバレーだろ?

「ほらほらっ!早くカキ氷食べてっ!」
「お…おうっ」

あかねにせかされるまま、おれは器に残ってたカキ氷をかっこむ。
ちんたら食ってたら、絶対こいつのことだ、無邪気に先に行くに決まってる。
んなことになってみろ。
あそこの大学生らしき男どもとか、あっちの社会人っぽい男どもとかが声かけてくるんだからよ。

いや…。
別に誰があかねに声かけようがしったことじゃねーんだけどなっ。

「さっ!早くいこっ。おねえちゃんたちが場所取りしてくれてるから」

そういって、あかねのやつは無邪気におれの腕を掴む。
…だーかーらー。
なんでこいつは、こうも無邪気に腕とかつかめるんだよ?

ただでさえ暑い夏の海水浴場で、なんでおれはより一層顔を熱くしなくちゃなんねーんだよっ。


…ま、いいんだけどよ。

振り返ったあかねの笑顔があんまりにかわいくって、おれは腕をつかまれたままあかねの後ろをついていった。








目指したのは、ヘタレであかねちゃんにぞっこんな乱馬くん。
…私の腕ではコレが精一杯でしたが(涙)

(05/09/01 ブログ発表分   05/09/17 加筆修正)





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