サプライズクリスマス



 すっかり外の空気が冷たく感じるようになった11月末。
 さゆりたちからの映画の誘いを断って、天道あかねは一人商店街の中をうろうろしていた。

 目の前にはこのあたりで一番品揃えが豊富な手芸屋さん。
 まだ12月になっていないためか、毛糸や編み棒などは店舗の奥のほうに陳列されている。

 ――もう……そろそろかなぁ。

 風林館高校の制服のスカートをひらりとひらめかせて、あかねは意を決して手芸屋さんの扉をくぐる。
 中には、色とりどりの毛糸の束。
 そして、その毛糸の隣には、「初心者でも簡単! 彼へのセーター」だの「初めての編み物」だのといった雑誌が所狭しと並べられている。
 それらの雑誌と目の前にある黄色い毛糸を目に留めて、あかねはゆっくりと息をつく。

 頭に浮かぶのは、いつも寒そうにフェンスの上を歩く許婚の姿。
 赤いチャイナ服に目の前の黄色はきっと良く映えると思う。

 そう思ったあかねは、目の前の黄色の毛糸を左手で『むんずっ』と掴んで、あまった右手で一番手前にあった「誰にでも編める。簡単マフラー」なる雑誌を掴み取る。

「今から編み始めたら間に合うわよねっ」

 思わずヒトリゴトを声に出してから、あかねはその二つを持ってレジに並ぶ。

 今年こそ勝負の年。

 去年、風林館高校の言い伝えに踊らされて一生懸命編んだマフラーを「地引網か?」といわれたことを思い出し、あかねは再度気合を入れなおす。
 もちろん、その後例の「地引網マフラー」をぶっきらぼうな許婚は何度か首に巻いてくれていたところを見るとそこそこ気に入ってくれたようだが、最初の一言があかねの負けず嫌いに火をつけた。

 ――今年は絶対に「すげぇ」って言わせてやるんだからっ!

 もはや何に対して闘志を燃やしているのかが本人にも分からなくなっているが、ひとまず目の前にある毛糸だけは無事マフラーにさせてみせると心に誓って、あかねは今年のクリスマスプレゼントのお会計を済ませていた。

(web拍手用テキスト『今年こそ』 加筆修正 05/12/21)



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