ふわり、とたんぽぽの綿毛が目の前を通り過ぎる。 それは、春の訪れを告げる優しい訪問者。 「おめー、髪に何つけてんだよ」 たんぽぽの綿毛に目を奪われていると、隣を歩いていた乱馬があきれた声を出してあたしの髪を優しくつまむ。 「え? 何が?」 「ほら、たんぽぽの綿毛がくっついてたぜ?」 あたしの髪からとってくれた綿毛を見せながら、乱馬は小さく笑う。 それは、珍しく優しい微笑み。 「あ、ありがと」 なんとなく、照れてあたしは思わず下を向く。 なんか、こういう仕草って恋人っぽくって恥ずかしくなるじゃない。 「しっかし、あかねとたんぽぽってすっげー似合わねぇよなー」 「へ?」 乱馬の優しい微笑みに思わず照れてしまったあたしの耳に、無遠慮な言葉が突き刺さってくる。 「だってよ、たんぽぽってすっげーおとなしくって慎ましいイメージだろ? あかねとは正反対」 「なっ!」 にやりと笑って口にするその言葉は、いつもどおりの悪口で。 でもそう言いながら笑う乱馬の笑顔が、たぶんあたしはたまらなく好きで。 「なによっ! うるさいわねっ」 「おめーの場合、どっちかっていうと向日葵って感じだよなー」 「え?」 いつものようにかばんで思いっきり殴ろうとしたあたしの耳に、珍しく誉め言葉のようなものがとびこんでくる。 「向日葵?」 「そ、向日葵。いつまでもしぶとく咲いてんじゃん?」 「……」 続けられた言葉に思わず思いっきり脱力してしまう。 そういう意味ね。 あー納得。 「おっ! やるかっ?!」 悔しいけど。 でも、あたしをからかう時の乱馬の表情がやっぱり好きだから。 「うるさいなーっ!!」 思いっきりかばんを振り回しながら、それでもなんとなく幸せな気分になった、春の午後。 (web拍手用テキスト転載 06/05/13) 戻る |